孤独の光
□第2章 夢とロマン
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「うえぇぇぇぇえ!?!」
朝から校内中に響き渡るうさぎの声
「ト、トップが3人に増えてる…」
廊下に貼りだされているのは、先日あったテストの順位結果だ。うさぎが驚いている理由はこの順位結果にある。
そう、彼女の友人である水野亜美はいつものことだが…。その隣には大気と名無しさんが同順として並んでいたのだ。
「亜美ちゃんと張り合えるなんて、大気さんも名無しさんも大した人だなあ」
「すごいわ!大気さん!…あ、そうだ!」
うさぎの隣でまことや美奈子も驚きの声を漏らす。そんな中、美奈子は何かを思いついたようで…。
「何?」
「ん?」
「大気さんに宿題教えてもらわなくっちゃ!」
「あぁあ!わたしも!」
「あ…」
そう言い出し、走り出す美奈子を追いかけるようにして、うさぎもその場を去った。
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「あ…」
「い…」
「う…。あぁぁ…!」
朝から信じられないほど騒がしい教室に足を踏み入れる。
もちろん最初に目に入ったのは、月野うさぎと愛野美奈子。二人とも、ノートであっただろう物を持ち立ちすくんでいた。
『…呑気な人』
彼女たちを罵るような目で見てから、私はその近くにある自分の席へ腰を下ろす。
「あ、名無しさん!」
ノートの半分を愛野に押し付け、月野はこちらへ笑顔で近づいて来た。
「おはよう!見たわよ、学年順位!1位なんてすごいね!!」
『…』
「ね、ねーえ?名無しさん?数学の宿題ってもちろんやってあるわよね?あの、良かったら…」
__バンッ
「?!」
前に言った関わるなという言葉を気にせず話し続ける月野に苛立ち、私は数学のノートを机に叩きつけた。
『これくらい写させてあげるから…、どっか行って』
「あ…」
それだけ言って私は教室を出ようと再び立ち上がる、が…
「名無しさん!ありがとう!」
そうにっこりと笑う彼女に、足が止まった。
『…変な人』
私の発言に、え?え?なんて、はてなマークを浮かべる月野を横目に賑やかな教室から姿を消した。
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放課後、職員室に用があった為チャイムが鳴った後すぐに向かった。
用が終わり鞄を取りに教室へ再び足を進めていた時だった
「でも、どうして行かないんですか?ケンブリッジ」
階段を上がっていた途中、何やら話し声が聞こえ私は足を止める。水野亜美と天野川先生、それと一人の男子生徒。
「いや、僕は星を見ているのが好きなだけなんだよ。夜空を見上げていると心が豊かになるんだ。人はどこから来てどこへ行くのか」
「先生はロマンチストなんですね」
「ははっ。宇宙は夢やロマンでいっぱいだからね」
そう楽しそうに言葉を交わす水野と天野川。
夢やロマン?…、馬鹿みたい。宇宙なんて孤独と暗闇の固まりじゃない。
「学問に夢やロマンは必要ないでしょ、先生。」
聞いているのが馬鹿らしくなり階段を登ろうとした時、男子生徒から発された予想外の発言。私だけでは無く、水野や天野川も驚きの声を漏らす。
私は再び彼らの話に耳を傾けた。
「…そんなことは無いわ。先生だって夢やロマンがあったから彗星を発見できたんだと思うわ。」
「…水野さん、でしたっけ?」
「ええ」
「同じ学年トップの意見とは思えませんね」
「え…?」
流れる沈黙。それに焦った天野川は沈黙を破るかのように提案を投げかける
「あの、君たち。明日の晩、一緒に家に来ないか?ワタル彗星を見に」
「はい!」
「…」
天野川の提案を無視し、男子生徒は階段を下りてきた。
「…、覗き見だなんて趣味が悪いですね」
『見てないわ。聞いてただけよ』
階段の下に居た私に気づいた彼は、通り過ぎずに話しかけてきた。
『行かないの?天野川先生のお家』
「あなたまで夢やロマンなんて言い出すのですか?…意外ですね。」
『そんな訳無いじゃない。私はあなたの意見のほうが共感できるわ』
「そうですか」
『…けど、一つ間違ってるわよ』
「え…?」
『夢やロマンが必要ないのは学問だけじゃない。…この世にある全ての物に、必要ないわ』
「…!」
予想外の発言だったのか、彼は驚いたような顔で私を見た…
『じゃあね。ワタル彗星見られると良いわね』
最後にそれだけ言って男子生徒の隣を通り過ぎるように、私は階段を上った。
夢もロマンも必要ない。
そう。必要ないのよ、そんな子供だまし。
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