孤独の光

□第3章 左隣の席
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『この辺りが良いかしら』


朝早くから来すぎた私はゆっくり本が読める場所を探していた。そして見つけたのは裏庭にある茂み。

ここなら騒がしい教室とは違いゆっくりできるだろう。

手に持っていた本を膝の上に広げ読もうとしたが、ふっと違う考えが頭に浮かんだ。

そう、天野川についてだ。

あの日、確かに天野川はファージにされた。なのに彼は今でも変わらずに学校へ授業を行いに来ているのだ。

一体誰が、天野川を元に戻したのだろうか。

考えても仕方がないと思った私は膝の上にある本に再び視線を落とす、が。次は違うものにそれを邪魔された。


「夜天くん!」


茂みの後ろ…、少し離れたとこから聞こえた月野の声。


「夜天くん、何読んでるの?」

「別に。こうしてると君みたいに用もないのに話しかけてくる子が居なくなるから」


ゆっくり出来ると思ったのに、先約が居たのか。本を読むのは諦めよう。ため息をつきながら彼女たちの話し声に耳を傾ける。


「何すんの…!」


どうやら、月野と話している相手も本を読んでいたのを邪魔されたらしい。月野の手には彼が持っていたであろう本があった。


「用があるから声かけてんのよ!」

「どうせ君の用なんて…、ラブレター頼まれたから渡すとかそんなもんでしょ」

「ビンゴ…!」

「多いんだよね、そういうの」


月野の元気の良い声とは正反対な男子生徒の声。私が言うのもあれだが、冷たい人だ。


「はい」

「…」

「あああ!何てことすんのよ!」


いつも以上に大きな月野の叫び声が響き渡る。男子生徒がペットボトルと一緒にラブレターまでゴミ箱へ投げ捨てたのだ。


「え…。ペットボトルって燃えないゴミだっけ?」

「ラブレターよ!読みもしないでゴミ箱に捨てるだなんて!乙女の決意を何だと思ってるのよ!」

「君には関係無いじゃん…」

「そういうことじゃなくて…!」

「そういうことだよ」

「ちょ、ちょっと…!なーに!あの態度!」


男子生徒が去ったのを見て、私は時計に目をやる。


『あ、もうこんな時間…』


月野たちの会話を聞いていたせいか時間はあっという間に過ぎていて、もう授業が始まる寸前だった。

私はその場から立ち上がり、男子生徒の後を追うようにして教室に向かった。




__________






『あ…』


教室に入った瞬間、驚きのあまり声が漏れる。先ほど月野と言い合っていた少年が私の左隣りの席に座って居たのだ。


「あ、名無しさんさん。おはようございます」

『大気さん。おはよう』


あのワタル彗星が現れた次の日から、何故かよく話しかけてくる大気光。

最初の方は私も無視をしていたのだが、返事をするまで何度も何度も話しかけて来るのだ。さすがの私も彼の押しの強さに負け、最近は返答をしているのだが…


『大気さん。銀髪の人なんて前から居たかしら?』


今日は疑問に思ったこと…、私の隣の席に座る銀髪の男子生徒のことを聞いてみる。


「ああ。夜天のことですか?もちろん居ましたよ。あなたがこの学校に来る前から。」

『そう…』

「おい、転校生。いくら何でも隣の席のやつ覚えてないのはやばいだろ!」

『…っと、あなたは…』


大気さんの後ろから現れたのは黒髪の男子生徒。確か、転校初日に月野に釣れられ屋上へ行った時に居た気がするのだが…、名までは知らなかった。


「まじかよ…!はあ。俺は星野光!スリーライツの一人だよ!!」

『あ、そうなの』


スリーライツというのは最近人気のアイドルらしく大気も入っている。…、というのも、もちろん私が知る訳も無く、少し前に大気に聞いたのだが。


「夜天もスリーライツの一人だよ」

『へえ…』


何も知らない私に苦笑する二人を横目に、私は銀髪の彼に視線をやる。

窓から入ってくる風になびく彼の髪は光に照らされ、キラキラと輝いていた。


『…綺麗ね』

「「え…?」」

『…!な、なんでも無いわ』


ふ、と出てしまった自分の言葉に驚き、そしてそれを他人に聞かれてしまったという何とも言えない恥ずかしさに耐えられず私はそれだけ言って銀髪の彼の隣…、私の席に着いた。


『…』


今まで気にも止めなかった隣の席。基本、授業中に何かするとしても右隣りとの行動が多く左隣りとは接点もあまり無い。

だが、先程のこともあり左側がそわそわして落ち着かない…。


「…、大気が言ってた通り。覗き見が好きなんだね、転校生は」

『え…?』


そんな私にかけられた、予想もしてなかった声。急にかけられた為、私も焦りを隠せず何とも間抜けな声を出してしまった。


「さっきの月野とのこと、見てたでしょ」

『あ…。気づいてたの』

「隠れようともしてなかったじゃないか」

『…別に、隠れる理由も無いから』


聞き耳を立てていたのがバレていたらしく、少しドキリとしたが冷静を装って彼に返答する。


「…変わってるね、確かに」


前を向いているにも関わらず、彼が私をじっと見ているのが分かった。

そのすぐ後、チャイムは鳴り響き先生が教室に入ってきた…。





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