短期戦

□カミサマのお話
1ページ/6ページ

強く風が吹くのと同時に、スカートがバタバタとうるさい音をたてる。
賑やかな街を見下ろして、腰掛けたビルの手すりを軽く握った。
ここはこの界隈でもそこそこの高さを誇る雑居ビル。
常人なら、落ちたらまあ間違いなく死ぬ。
わたし?わたしは大丈夫。絶対に死なない。
というか死ねない。
不死身…ではないけど、それに近いモノ。
人間、されど怪物。
ん、正体を明かすのはここまでにしておこう。
だって、お楽しみはあとのほうがいいでしょ?
どんなマジックにせよ、タネがわかってたら面白くもなんともない。
好きなもの

面白いもの


嫌いなもの

つまんないもの

だから、ここに来た。

「さあ、今回は楽しませてくれるよね」

笑みがこぼれる。
今日からわたしは、この世界の住人だ。





















第一訓  天然パーマに悪い奴はいない


海沿いの道路を一台のバイクが走り抜ける。
そこに乗っているのはゴーグルをした一人の男と、ヘルメットを深くかぶった眼鏡の少年だった。

「ヤバイ!!もう船が出ます!!
 もっとスピード出ないんですか!!」
「いやこないだスピード違反で
 罰金とられたばっかだから」
「んなこと言ってる場合じゃないんですって!!
 姉上がノーパンの危機なんスよ!!」
「ノーパンぐらいでやかましーんだよ!!
 世の中にはなァ新聞紙をパンツと呼んで暮らす侍もいんだよ」

なんともくだらない会話をする二人の後ろに、宙に浮かぶパトカーが呼びかけた。
道路交通違反だと叫ぶ警官に頭突きをくらわせたゴーグルの男。
鼻血がなんだと警官は叫んだが、男の後ろの少年は構わず叫ぶ。

「ノーパンしゃぶしゃぶ天国…出発しちゃった!!」

焦る少年。そろそろ出番かな。


ハーイ♪今までこの状況を語っていたのはわたしです!
カミサマだよ!
よろしく(キラッ
ま、おふざけはこれまでにして。
いきますか。

「このパトカー、使えば?」

さっき座ってた雑居ビルからの跳躍。
正確にパトカーに降り立ち、眼鏡くんに声をかけた。
いきなり現れたわたしにびっくりしているみたいだけど、今はそんな暇ないんじゃない?

「ほら、急いで。早くしないと、君のおねえさんが危ないよ」
「な、なんでそれを…」
「いいからいいから」

少年を遮り、真下_つまりパトカーの運転席があるだろう、つるつるの屋根に手をおいた。

「よっ…と」

すかさず、いまだ怒鳴っている警官二人を中から放り出す。
きれいな放物線を描き、宙を舞った彼らに傷がつかないよう、道路沿いの植え込みに落とす。
だって流石に申し訳ないからね。
一般人に鼻血流された挙句、怪我するなんてことがあっちゃ、この人たち減給ものだろうし。
ちゃんと落ちたのを確認してから、ゴーグルをかけた男にも声をかけた。

「ねぇ、そこのおにーさんも乗りなよ
 バイクはわたしがなんとかしてあげるから、さ……」
「どーもー…??!!おまえ!」

あーらら。初っ端から大凶をひいちゃった。
おみくじなんてひいたことないけど。

まさか、コイツに会うなんて。

「わー…。えっ…とー
 久しぶ、り?






 銀時」


「…言いたいことは山ほどあるが、あとだ
 とりあえず乗っけろ。」
「あいあいさー」

空中で指を動かし、パトカーのドアを開ける。
そのまま二人を乱暴に押し込んだ。

「ぐえっっ…てめっ何すんだ!」
「協力してんだから文句言わないー。
 ……あとは自分たちでなんとかやってね」
「はぁ!?させるか!言いたいこと聞きたいこと何年分溜まってると思ってんだ!
 ついでに俺の性欲も溜まりに溜まっ__」
「はいはい、また今度ね」
「おい、ちょっ……!」

下品なことを言った馬鹿を捨て置き、トンッとジャンプ。
途端に体は上空へ向かう。

(これは、サービス)

開いていたドアを閉め、さらに上へと浮かばせた。
なにをやっていたのかは知らない。
でもどうせあいつのことだから、ややこしいことにあの天パ頭突っ込んでるんだろう。

「懐かしいなぁー」

あれはいつのことだっけ。
昔ってことは覚えてるんだけど、時系列ははっきりしない。
なんせド○えもんよりも時間旅行してるんだ。
どれがいつでいつがどれだか。

(こういうのを、虚しいっていうのかな)

月日が経ち、年月が過ぎるごとにこぼれていく想い出。
それすら鬱陶しくなったのはいつからだろう。
裏切って、裏切られて。
騙して欺いた、嘘で塗り固まれた歴史。
人生は、くだらない。
身をもって断言できる自分がいる。

(ま、感傷に浸れるほどの感情は持ち合わせてはいないけど)

今だって、そうだ。
虚しいかもしれない。だけど、悲しくない。
怖くない。寂しくない。
痛くない。辛くない。
身を切られるような苦しみも、
胃の腑が締め付けられるような喜びも、
味わえないから。

(くだらない)

そう、締めくくる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ