短期戦

□カミサマのお話
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第二訓 ペットは飼い主が責任を持って最後まで面倒を見ましょう



昔馴染みの坂田銀時と出会ってから半月。
いろいろなところを寝床にする毎日だ。
この前は江戸城。
その前はどっかの丘。
そのまた前は天気が良かったからターミナルの頂辺で。
常人ではないわたしだからこそできる離れ業ではあるが、何ぶん人の目もあるので派手に寝れない。
…派手に寝るってなんだよ。
まあそれはさておき。
今日はとあるお宅にお邪魔させてもらっている。
さっき挙げたようなところで野宿も悪くないけど、ベッドや布団で寝たいと思うときもあるわけで。
そんなときは、無駄に大きくて部屋が余り余っている、どっかの金持ちの屋敷に泊まるのだ。
無許可で。
罪悪感?なにそれ面白い?
どこの誰の家かは知らないが、部屋の数が多すぎて、家政婦がやる気を無くすほど大きいのなら、人間一人が数日いても何の問題もない。
幸い、そういう屋敷が多い界隈らしく、数週間にわたる逗留も無事に終わるはずだった。
しかし。

「やらかしたなー…」

目の前でポカンと口を開けているグラサンのおじさんを前に呟く。
今回いたところは屋敷の主が多忙らしく、部屋の周りを、荷物を取りに来た使用人たちが
動きまわっていた。
無いとは思ったが、万が一ここにいるのがバレたらややこしいことになる。
それを考えて結界(みたいなもの)を張っておいたにもかかわらず。
解いた瞬間に部屋に入ってくるなんて。
敵意がなかったため反応が遅れた。
煙草を吸いたかったのだろう、両手に煙草の箱とライターが握られている。

(仕方ない、さっさと済まそう)

本来なら口封じをするところだが、人間の生態系を崩すのは好ましくない。
少々薄汚れてはいるが、真っ当な人物なら尚更だ。

「おじさん。この部屋、ちょっとの間わたしが使わせてもらったんだ。
 正体は明かせないけど、何かお礼をしないとね」

お礼というか賄賂。
バレたときに使う手段だ。
こういうものを渡せば、大抵の人間は大人しくなる。
金銭が一番多いな。
でも、残念ながら今は持ち合わせがあまりない。
いや、一応それなりの金額は持っているが、こういう豪奢な屋敷に住んでいる人間に渡すほど大層なものではないのだ。
逡巡すること二秒。
その間に、あるものを思い出す。

「そうだ、これ」

状況を理解できてないおじさんの手に押し込むように手渡す。

「多分この国の重鎮とかだろうから、汚れ仕事もあるんでしょ?
 そういう時はここを頼るといいよ
 金さえ積めば何でもやるんだって」

そのまま隣を通り過ぎた。
早めに姿を消さないと、騒がれる恐れがある。
襖に手をかけ、付け足す。

「ああでも、気をつけて。
 あなたの手に負えるかどうかはわかんないから」

最後のは言わないほうがよかったかな?
ま、いっか。
最後まで彼に喋らせずに出てきたけど、これは言っといたほうが良かったかもしれない。



グラサン、外したら?って(笑)












襖を閉め、廊下に誰もいないか確認。
よし、いない。それに気配も0。
そのまま新宿に行く。
行くってどうやって?と思ったそこの君。
わたしはカミサマなんだ、そんなことぐらい普通にできるよ。
理屈はつけられないけど。
シンプルに言えば瞬間移動かな。
そしてここは新宿。
まあ、新宿だろうが目黒だろうが、今のこの国ではどこもたいして変わらないんだけど。
とにかく着いた。
あ、もちろん人のいないとこ。
何もない空間にいきなりなにか現れたら大騒ぎってことくらい、わかる。
だからここは新宿の裏道です、はい。
大通りにぴょんと飛び出す。
すると街はなんだか変な雰囲気だった。
ざわついてるというか、皆揃って不安そう。

(何かあったのかな)

面白いことなら大歓迎だ。
見物しに行こう。
そう思って側にいたおじいさんに近づいた。

「おじいさん、街が変ですけど、なにかあったんですか?」
「おぉ。お嬢ちゃん知らないのかい。
 実はな、ターミナルからえいりあんが侵入したみたいでな、ここ、新宿に向かってるそうなんじゃ」
「へー、えいりあんが。 それは大変」
「じゃろ?わしは今から逃げる。あんたも早いとこ安全なところに行きなさい」
「はーい。ありがとうございます!」

手をふって優しいおじいさんと別れた。
後ろで、「わしがあと40歳若ければ…」と言っていたのは聞かなかったことにしよう。
えいりあんねぇ。
最近多いね、そーいうの。
面白いかは微妙だけど。
とりあえず、見に行こっかな。
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