GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□夏祭り
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人の間を縫って進む。
距離にしたらそうでもない癖に、余計な障害物のせいで遠く感じた。



「わたくし、実物を見るのは初めてで……あ、すみません」
「……」
「あら、すみません……」



慣れない人混みに翻弄される美奈子。
絶えず誰かにぶつかって困ったように頭を下げている。

見ていられず手を引いた。



「あ」



引き寄せて腰に手を回す。



「あら」
「なんだよ」
「まぁ」
「なにが」
「こんなに人がいるのに、聖司さまの声しか聞こえません。ふふ」
「バカ。変なこと言うな」



照れくさそうに身体を寄せてくるのでつられてしまった。

ふん、と顔を逸らした辺りで、何かを打ち上げる小さな爆発のような音が耳に届く。
一瞬の間のあと、開いた花火が顔を照らした。



「……わぁ……」



混んでいる分良い場所が取れたようでよく見える。

次々と絶えず打ち上げられる花火を2人で黙って眺めていた。
時折美奈子が小さく歓声を上げるのが聞こえたが、多くの言葉はいらない気がした。


……大会、ということは競い合いがあるということだ。
毎年どこかが勝ってどこかは負ける。
アナウンスで次はナントカ株式会社の、等と言っているのは微かに聞こえるが、この観客たちの何人がそれを気にしているのだろうか。

設楽はうっすらと覚えている。
確か一昨年と去年の優勝したところは同じだ。
今年は……



「あの、聖司さま?」
「ん?」



……と、ぼんやり考えていたところで美奈子が見返ってきたのに気づく。



「お恥ずかしながら、暑くて少し汗をかいてしまいましたの」
「それで?」
「少し離れてもよろしいでしょうか」
「何で」
「何でって、わたくしが嫌です。恥ずかしいですわ」
「俺は嫌じゃないからいい」
「意地悪……」
「知らなかったのか」
「再認識ですわ」
「言ってろ。ほら、前向け」



彼女のくだらない戯言のせいで何を考えていたか忘れた。

……ああ、そうだ。
勝ち負けの話……。











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