GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□パーティ
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一曲だけ踊って、やれやれと隅の席に座る。

美奈子は予想通り経験があるのか、難なく踊ってみせていた。
長いドレスや高いヒールはものともせずくるくると回り、堂々とした姿勢を崩さないので感心すらした。
が、それを設楽が一言褒めると途端にあらまぁと照れ始めて足を引っ掛けたので呆れた。本当によくわからない。


ふと机の上にあった紙に目が留まる。



「……、」



小綺麗な台紙に貼り付けられたそれは今日のタイムテーブルのようだ。

開会、挨拶、ダンスタイム、歓談……などとあって、スペシャルショータイム、と続いている。
そしてそこにはゲストの名前が記載されていた。



「ーー美奈子」
「はい?」



グラスを傾けていた美奈子が顔を寄せてくる。

これ、と示すと、驚いたように目を丸くした。



「……まぁ。帰国されていたのですね」



宣材写真とともに記されていたのは美奈子の姉の名前。
苗字は変わっているが、顔を見れば一瞬でわかる。

色の濃い化粧で縁取られた目は妹と随分違うように見えるものの、鼻や口の作りは殆ど同じだ。
特に今の着飾った美奈子であれば、並ばなくてもすぐに姉妹だと気付けるだろう。



「外すか?別に俺は、」
「いいえ。逃げません。聴きたいですわ」



ぴしゃりと遮るように、しかし柔らかい口調で美奈子は言う。

設楽からは見えないように、机の下で、きゅっと拳を握りしめた。



「わたくしは大丈夫です」



そうして司会のアナウンスと共に照明が落ち、スポットライトと共に1人の女性が入場した。

凛とした姿勢や自信に満ちた表情。
恭しく丁寧にお辞儀をすると、しなやかな動きでピアノの前に腰掛ける。

静まり返った会場に、透き通った音色が響き始めた。


ふと前の席の数名が設楽の方をちらりと振り返る。
が、彼ではなく、隣の彼女を見ていることはすぐにわかった。
すぐに目線を外すと、席の者同士でこそこそと話し始める。



「あれって」
「……そこに……」
「やっぱり」



聞こえる下世話な噂話に不快感を覚えた。
くだらない。



「……」



美奈子の顔を見やると、そんな会話は聞こえないのか、いつもと変わらない顔で姉の演奏を聴いている。
耳を傾け、時折感動したような笑みを浮かべていた。

……どこか、吹っ切れたような表情に見えた。







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