劇場版PSYCHO-PASS

□肉食
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 太腿と腰を掴まれ、がつがつと打ち付けられる。内臓ごと押し上げられるような息苦しさと這い上がる快感に自然と名無しさんの背中が反り、一層腰を押し付けてしまう。口から溢れるのは訳の分からない言葉ばかりで、ふやけた頭はくらくらと回った。



「あ、だめ、そこぉっ」
「ん?」
「きゃぅうっ!ぁあぁぁぐりぐりしちゃやだぁっ!」



 わかってる癖にと涙目で訴えても、とぼけた答えと余裕のある顔が返ってくる。

 脚を掴んでいた手が繋がった部分に添えられて、尖りきって真っ赤に充血したそれを親指で擦り上げた。柔らかく押し潰してやると、名無しさんは宜野座の手首を掴んでふるふると首を振って泣きそうに顔を歪める。

 ほやんと火照った頬にとろけた目。動く度に震える甘ったるい声も切羽詰まったように上擦っていく。



「待っ、あ、っひ、ぃくぅ……ッ!」



 ぐちゅぐちゅと奥を擦りながらぬるぬるした陰核を弄っていると、名無しさんが宜野座の腕を掴む力を強めて目をぎゅっと瞑った。そしてびくっと全身が痙攣して、暫く唇を噛みながら小さく震える。浅く荒い呼吸を繰り返しながらゆっくり力が抜けていった。



「……は、っふぁぁ」



 瞑っていた目を開き、名無しさんが気だるそうな声を上げる。

 何度も何度も一人だけ追い詰められているのに、彼は依然として余裕たっぷりだ。悔しいし、何より疲れた。
 舌が回らないのを自覚しながら口を開こうと息を吸った。



「ぎのさぁん……ちょっと、きゅうけい……」
「俺はまだだ」
「だ、だってギノさん遅いから」
「名無しさんが早いんだろ」
「……意地悪」



 目の前の身体を無駄な抵抗とわかりつつも弱々しく押し返しながら、ぼそっとこぼす。



「前はもっと可愛かったのに……」
「不満か?」



 前、とは数年前の頃だ。
 ある夜に、何か忘れたが適当な嘘で宜野座を部屋に連れ込んで不意打ちで捩じ伏せて拘束し、無理矢理名無しさんが上になって終わらせたことがあった。ちなみに彼の遅い童貞喪失もこの時である。……実に荒っぽい。
 そこで最後の最後に名無しさんが彼に好きだと告げ、滅茶苦茶な段取りでカップルが成立した。

 それから開発だの調教だの教育だのと称して名無しさんが宜野座を仕立て上げた結果。……完全に上下が逆転した。
 慣れてしまえば男のものである。歳の差はあっても、力や体格の違いは覆せないし抗えない。


 いじけた名無しさんに宜野座が問うと、尖らせていた唇を力なく開いた。熱い吐息混じりに告げる。



「ううん、……かっこいいから、すき」
「ッ……なら、頑張れ」


 
 とろんと潤んだ目。色づいた頬をふにゃりと綻ばせたその表情に心を鷲掴まれた。頭を過ぎる、抱き潰して噛み付いてやろうかという欲を振り払う。
 次は自分の番だ。
 
 どろどろに溶けたそこから引き抜いて、名無しさんの身体を反転させる。腰を掴み、自身を擦り付けた。
 彼女が驚いた顔のまま肩越しに宜野座を見る。



「ぅえ、後ろっ!?ぁ、っきゃ」



 抗議も文句も何も言わせないように、ずちゅんっと一気に貫いた。名無しさんの背中が反り返る。さっきまでこじ開けられていたそこは軽々彼を飲み込んでしまう。



「名無しさん」
「っ!」



 宜野座が名無しさんに覆い被さり、強く抱き締めた。腹部にまわった金属の腕は冷たいが、それすら気持ちいいと思える。
 
 そして真っ赤に血ののぼった名無しさんの耳に口を寄せて彼が名前を呼ぶと、彼女は目を見開いて驚いた。びくっと肩がはねて身体を捩る。
 同時に、ぎゅぅうっと宜野座を締め付けた。



「……痛いぞ」
「だっ、だめ、耳くすぐった、いっ」
「耳?」
「ひんっ!やだ、も、勝手にぎゅってなるからぁ……!」



 逃げようと手足をばたつかせて暴れる名無しさんを抑えつけ、わざと低く吐息混じりに囁いてやると、声にならない叫びをあげてひくひく震える。自然と力がこもり、捩じ切らんばかりにきゅうきゅうと宜野座をくわえこんで離さない。

 耳に吹き込まれる熱く荒っぽい息と低い声。いくら暴れても適わないのに、ぞくぞくと這い上がってくる強すぎる快感から逃れようとする。



「あ、ぁあ……っ」



 力が込められて締め付けるそこからずろろろっと無理矢理のように引き抜く。亀頭と茎の境目、硬く張った段の部分がごりごりと中の襞を擦って逆立てた。次いでまた押し戻すように突き込んでくる。
 ぶつかる腰や掻き回される秘部がばちゅんばちゅんと荒い音を立て、名無しさんの耳にまで届いた。

 激しく揺さぶられながら、一番奥を何度も何度も押し上げ、突き上げられる。圧迫感と絶えない快感が背中や腰を這いずって、頭へ駆けていく。自然と涙が零れ、頬や顎を濡らした。



「ぅあ、あぁっ、ん、んーっ!」
「ッ、名無しさん」
「──っあ」



 呼ばれる名前に胸が締め付けられた。同時に下腹部から力が抜け、ぴゅっぴゅっと尿道から何かが飛び出る。それが潮だと認識するのと同時にかぁあっと顔が熱くなって、乱れたシーツを握り締めた。

 遂にへとへとになった腕が崩れる。ベッドに下半身だけを突き出すように倒れ込んでしまう。
 それでもなお宜野座は容赦することなく動き続ける。昔名無しさんが彼にしたように、泣いても懇願しても力尽きても終わらない。



「ふ、ぁ、またいく、ぃっひゃうぅっ、あっ、あ゙ー……ッ!!」
「ッく、……あ、っ」



 そしてついに、ぱしんと名無しさんの視界が白く弾けた。びくんっ、と大きく痙攣し、シーツを掴んだ手に力を込める。ひくひくと震えながら、中で脈打つ感覚を受け止めた。達しても宜野座はまだ奥に押し付けてきて、熱い精液を出し切るように揺らす。

 ずるん、と引き抜かれたのと同時に名無しさんが力なく沈んだ。荒い息を整えるでもなく、放心したように脱力している。



「はぁ、はー、……はふぁ……っ」



 くぷ、と精液が空気と共に腿の間へ零れた。名無しさんがとろんと蕩けたような表情で宜野座へ手を伸ばす。それに応えるように彼も顔を寄せ、唇を押し付けた。ちゅ、ちゅっと何度か軽く吸って離し、彼女の隣に寝転がる。
 その胸に擦り寄りながら、名無しさんがいじけたように口を尖らせた。



「あのどーてーギノさんが……私に乗られてひーひーしてた癖に……」
「何年前の話だ、それ」



 彼にとっては忘れたい記憶なのか、からかう名無しさんに宜野座は苦い顔をした。

 この数年で自分も周りも、随分と変わった。 
 潜在犯認定され、執行官として戻ってきた。姿を眩ました元同僚。父親の殉職。失った腕。新しい監視官、執行官。ドミネーターは進化していくし、新しいドローンも増えている。常守は随分頼もしく成長したが、自分は妥協を覚えた。ああ、そういえば。元同僚の男には再会した。殴ったときのあの表情や重たさは忘れないだろう。



「でも、今のギノさんも大好きだよ」
「……ああ」



 しかし名無しさんは変わらない、と宜野座は思う。
 向けられる愛情も、この笑顔も。

 つられて笑いながら、擦り寄せてくる頭をぽんぽんと叩いた。













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