劇場版PSYCHO-PASS

□創世記
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神は彼らを祝福し、言った。
「産めよ、増えよ。地に満ちよ。地を従わせよ」
そのようになった。








旅の途中。
割愛するが、いつもの流れで面倒ごとを片付けた後。
村長と名乗る男がやってきて、礼と称して宿を提供してくれることになった。

紹介されるがまま村の奥へ奥へと進み、少しばかり坂を登った場所にある小屋を案内される。
鍵を開けると、広々とした玄関が狡噛と名無しさんを迎えた。
奥へ繋がる廊下は長い。



「家ごと自由に使ってもらって構わない。出発は?」
「家ごと?……明日か明後日。長居するつもりはないさ」
「そうか、残念だ。後で食料と水を届ける」
「悪いな」
「礼を言うのはこちらの方だ。住んでもらってもいい」
「はは」



手短に設備を説明すると、老人は鍵を狡噛に手渡した。



「食料の類はこのあと一度まとめて持ってくる。風呂にでも入ってるといい」
「助かる」
「ありがとう、おじいちゃん」
「おお。ごゆっくり。ほっほっほ」



はっはっは、と再度笑いながら長は去っていった。

扉が閉まると、急に静かになる。
外界の音が一切入ってこない。
壁が厚いのか、住居から離れているからか。



「見たい!行こう、早く!」
「引っ張るな」



照明やガス設備の説明を受けている間からずっとそわそわと落ち着きのなかった名無しさんが顔を綻ばせ、狡噛の腕を掴んだ。

廊下を進み、部屋を見て回る。



「……おいおい」
「すごい。何かの罠?」
「信用できる……筈なんだがな」
「疑っちゃうわね」



リビングにはテレビ、間接照明、ガラスのテーブルに本の詰まったラック。
キッチンにはバーカウンターがあり、名の知れた酒が並んでいる。
大きな鏡にサイドテーブルとソファーの置かれた寝室。
どこのリゾート地かと見間違う程の設備だった。



「客人用だろう。有り難く使わせて貰うさ」
「久しぶりにわくわくするわ」



んん、と腕を上げて背伸びをした。











名無しさんが一通り身体の血や泥を洗い流し、入れ替わりで狡噛がシャワー室へ入った頃。
宣言通り先程の老人と、村の子どもらしき数人が食事を届けに来た。
キッチンのテーブルに置かれるそれらの説明を受ける。



「あと、これを」
「お酒?」
「祝い酒だ。祭りの日に飲む」
「へぇ。これは何の実?」
「村の特産物だ。美味いぞ。この酒ともよく合う」
「ふぅん。貴方は一緒に飲まないの?」
「いい、いい。ごゆっくり」
「?」



柔らかい笑みを絶やさない彼が頷きながら言う。
一瞬妙な違和感を覚えたが、悪意や裏のような雰囲気ではなかったので受け流した。

届けに来た子どもが羨ましそうにその果物を眺めていたので、帰り際こっそり1つ渡してやる。



「ありがとう。これおいしいよ、好き!」
「こちらこそありがとう。よく食べるの?」
「うん!おいしいし、びよう?にいいんだって。あと頭もよくなるらしいよ!」
「そう。あの飲み物は?」
「わたしたちは飲んじゃだめだって。せいじん?になった日にみんなで飲むんだ」
「へぇ、早くなれるといいわね」
「うん。ばいばい」



彼らを見送って、ドアを閉めた。

ソファーに腰掛けて髪を乾かしながら、静かすぎる部屋で脚を伸ばす。



「……、」



ふと本棚が目について、背表紙の並びを見上げた。
村の文化や歴史が書かれているようだ。
立ち上がって手に取り、ぱらぱらと捲ってみる。

手書きの記録や写真つきの製本など様々で、小さな村の割に豊かな理由が多々示されていた。
何となく読み始め、内容の豊富さに驚く。

特産だといっていたあの果物の写真を見つけたあたりで戸が開く音がした。



「飯か。……多いな」
「何で届けたのかしら。昼は一緒に摂ったのに」
「さぁ」



本を閉じて振り返る。



「これ結構面白いわよ。異文化摂取」
「後で見る」



狡噛はキッチンのカウンターの中に入り、酒瓶を見上げていた。
遠目でも上機嫌が見て取れる。



「……良いのあった?」
「ああ。飲むか?」
「私はいい。どうぞ」



飲んだくれないといいけど、と呆れながら洗面台へ向かった。









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