ときメモGS4
□引き抜きにくい釘
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専門学校のラウンジ。
昼休み。
「こんにちはっ」
彼女は目を輝かせて、
「あの、出る方に興味ないですか!?」
「……はい?」
彼に近づいた。
「小波美奈子っていいます。同級ですよね?」
「ああ、まぁ……多分」
「よかった。夏休みに1本映画撮ろうと思ってて、キャストで。どうでしょう?」
「どうって言われましても」
「声も良い……アガる……」
「はぁ?」
一人でぶつぶつと呟く美奈子。
切りっぱなしの黒い髪が肩にかかり、さらさらと揺れていた。
「お話だけでも。お願いします!お給料出します!……少ないけど……」
「ええ……?」
突然の逆ナンに眉間を寄せる七ツ森。
面倒くさいのに絡まれた、としか思えなかった。
「眼鏡外して髪整えたら絶対画面映えすると思う。ほら、高校生モデルのあの人っぽい。名前忘れたけど」
「……Nana?」
「多分そんな感じの名前。……ええと、お名前何ですか?」
「七ツ森実……」
「七ツ森くん。ええと……考えてくれる?まだプリプロっていうか脚本書いてるとこで、キャスティングはまだまだなんだけど」
鞄から財布を取り出して一枚の紙切れを机に置いた。
小波美奈子という名前と電話番号、メールアドレスが書き記されている。ソーシャルメディアのアカウントも。
随分と薄い紙だが、名刺のようだ。
「君で当て書きできたら最高だよ。また声かけるね」
「……はあ、まぁ、どうぞ」
「やった!じゃあね!」
「待った」
「はいっ?」
「……知らないってことでいい?」
「何が?」
「俺が……」
「?」
「……オーケイ。なんでもないっす」
素直に首を傾げた彼女。
どうやら本当に気づいていないらしい。
別に自分から言うことでもないか、と言葉を飲み込んで、七ツ森はまた視線を手元のスマホに落とした。
課題を終えてパソコンを閉じる。
そういえばと思い出しポケットを探ると、くしゃくしゃに縮れた名刺が出てきた。
「……小波、美奈子……」
下の方に小さく載せられたアカウントのアルファベットをスマホへ打ち込むと、一番上に表示された。
……フォロワー、5万。
主に撮影した写真や動画を載せているらしい。
ポートレート、短編映画、ミュージックビデオ。
ポートフォリオとしても活用しているようだ。動画サイトへのリンクも貼ってある。
学生にしてみればありふれた内容で顔出しもせずにしては、この数字は中々だと思った。
……フォローされています、と出ている。
目についたポートレートをタップして拡大してみた。
「……へぇ」
自然光とフィルターの使い方が上手い。
ただの変人じゃなさそうだ。
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