真琴の彼女で高校生活

□1月
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元日。ほのぼの。








 迎えに来てくれた彼は、私を見た瞬間に動かなくなった。


「……」


 1月1日。元日。
 一年の初めの日である今日は、何かと大事な日らしい。初何とかだとか縁起がどうのとか、ネットやテレビでは大騒ぎだ。
 そしてそれらを合わせて都合よく設けられた自主参加型の行事が、その年の健康や安全、はたまたお願いなんかをお祈りする初詣と呼ばれる参拝。
 家族で行ったり恋人と行ったり、友人と行く若者は多い。

 と、いうわけで。
 私は水泳部のみんなについて、一緒に初詣に行こうと計画した。

 そして、折角だからと親に振袖を着せてもらって今に至る。

 暖色で煌びやかなその衣装は、きっと今日しか着られない。
 着せてもらった後家族にべた褒めされて、自分でもちょっとはいけてるかな、なんて自信もあったんだけど。
 ……どうして固まってるんだろう、真琴くん。


「えっと、真琴くん?」


 目の前でぶんぶん手を振ってみても、声をかけても反応無し。

 何かまずいことでもしたんだろうか。


「あの、だいじょ」
「名無しさんちゃん」
「わっ」


 もう一度呼びかけると、急に真琴くんが動いた。
 伸ばした手を掴まれたかと思うと引っ張られて、ぎゅうっと抱き締められる。

あ、真琴くんの匂い。……じゃなくて。


「ちょっ、と、何す……っ!?」


 びっくりして暴れようとしても、その隙間すらないくらい密着してる。

 あったかくて強くて、胸の奥の辺りがぎゅってさてれるみたいにどきどきして。
 諦めてされるがままになっていると、真琴くんがちいさく呟いた。


「……やめよ?」
「へ?」
「やだ」


 元々帯で締められているお腹を更に押し潰すんじゃないかと思うくらい力を込められて、痛い。

 震えそうな声を頑張って押し出す。


「ねぇ、何が?」


 でも、真琴くんは答えてくれなかった。

 片腕はそのまま私を抱き締めたまま、空いた方で携帯電話を取り出すのが辛うじて見える。
 ……携帯?


「もしもし渚?ごめん、俺たち行けない」
「!?」
「俺の分もいっぱいお願いしといて?」
「ちょっとまこ、むぐっ」


 何を話してるかと思えば、相手は渚くんで、内容は初詣のキャンセル。
 止めようとしたら私を抱いていた手が離れて、口をぐっと押さえられた。

 真琴くんはそんな私を見ていつも通り笑うと、何でー!と渚くんの声が漏れる携帯に意識を戻して、


「……何でも。ごめんね。じゃ」


 とだけ言って通話を切った。

 折角の初詣の約束を勝手に取り消されて怒らないはずがない。
 携帯を再度しまって私をにこにこしながら見詰めている真琴くんを精一杯睨みつけた。 


「真琴くん!!……わ、」


 でも情けないことに、またまた抱き着かれて振り解けなくなる。

 家族も私より先に初詣に出掛けてるから、誰もいなくてよかった。
 ……よくない、のかもしれないけど。


「ごめん。それ、駄目」
「え、あ、似合ってない?」
「違う。……もー」


 真琴くんは私の頭にほっぺたを押し付けるように擦り寄せてから、いつものほわほわした声で、


「みんなが惚れちゃうからだーめ」


 と言った。


「えっと、つまり」
「見せたくない」


 いつの間にか靴を脱いでいた真琴くんが一段上って、私の手を掴んで奥へ進む。

 新年早々しかも元旦、だけど。
 まぁいいかな、って思う私はやっぱり彼が好きなんだなぁ、なんて。




















「まさか全部脱がされるとは思ってなかったけど」
「ごめん。可愛くてつい。汚れるし」
「……」
「来年は二人で行こ?」
「……うん」







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