真琴の彼女で高校生活
□3月
1ページ/2ページ
雛祭り。甘。
くた、ともたれ掛かってきた身体を受け止めた。
「名無しさんちゃん?」
びっくりして顔を覗き込むと、
「ふぇ、……えへへー」
ほっぺたが赤くなって、力の抜けた笑いが返ってくる。
酔ったひとみたいな、……って、まさか。
「名無しさんちゃん、酔っちゃった?」
「なぁに?それぇ」
うふふー、と笑ってすり寄ってきた。
まさかじゃなく、酔っていると確信する。
名無しさんちゃんの家では毎年ひな人形を飾っているらしい。
遊びに来たついでに見せてもらってその大きさに感動した後、家の人に甘酒があるからと頂いた。
でもまさかそれで酔っちゃうとは思ってなかったなぁ。
あれ、アルコールほとんど入ってないのに。
洋酒の入ったお菓子なんかも気をつけさせなきゃな、と頭の位置を直してあげると、いつもならあまりお目にかかれない種類の蕩けたような笑顔が返ってくる。
……可愛い。
名無しさんちゃんは結婚したい系女子だ、とクラスの男達が言っていた。
何でも、付き合いたい子と結婚したい子はそいつらの中では別らしい。
女子のことを勝手にどうこう言うのは好きじゃないから聞き流してたけど、思い返すと考えさせられる。
名無しさんちゃんは可愛いだけじゃなくて一緒にいて安心できるし楽なんだと思う。飽きないし、もっと傍にいたいし、ずっと好きだ。
あの時、彼氏は俺なんだって言ってないけど言ってやりたかったなぁ。
酔ってるせいか潤んだ名無しさんちゃんの目が俺を見て、首を傾げた。
ああもう可愛いな。
「名無しさんちゃん、部屋行こう」
「ひゃー」
ぐったりしてるせいでいつもより柔らかい背中と膝裏を支えて抱き上げると、楽しそうに名無しさんちゃんがくすくす笑った。
部屋の場所は覚えてる。階段を上がって左、進んで正面。
家の人とは気を遣ってくれているのか、会わなかった。
ドアノブを開けるのに苦労したけど、入りきってやっと落ち着いた。
この状況を説明するのは中々難しいし。
下ろすよーと声をかけてから、ベッド脇に膝をついて名無しさんちゃんを背中から寝かせる。
ふわっと名無しさんちゃんの匂いがして、思わず笑った。
慣れたはずなのに、やっぱり反応してしまう。
時々全く関係ないところでも同じ匂いがしてびっくりするけど、普通に考えて洗剤やら柔軟剤が同じなんてよくあることだし過剰に反応してるだけかもしれない。
「って、うわっ」
とろんとした目の名無しさんちゃんと目が合ったかと思うと、強く服を引っ張られた。そのまま前のめりに倒れ込んで、咄嗟に名無しさんちゃんの身体を避けて両手を付く。
焦点が合わなくなるくらい近くにお互いの顔があった。
「名無しさん、ちゃん?」
唇がくっつきそうで、そっと声を出した。でもその直後、押し付けるみたいにそれがくっついた。
「ん、っんん」
いつの間にか頭の横に名無しさんちゃんの両手があって、掴まれていて動けない。
その気になれば引き剥がせるだろうけど、まぁいいかと諦めた。
甘い味と微かなお酒の匂いが鼻腔をくすぐって、ふわふわする。
はふ、と息を吐いた名無しさんちゃんがもう一度吸い付いてきた。今度は舌で俺の唇と歯の間を割ってくる。
すぐに熱い感覚と一緒にそれが絡まった。ぬるぬるして、とにかく甘い。
俺が上なのに主導権は完全に名無しさんちゃんが握ってて、変な感じがする。
奪ってやろうと思っても、中々に難しい。
「っぁ、は」
息がかかるからといって合間にしか空気を吸えない名無しさんちゃん。
可愛くてまた笑ってしまう。
「まこちゃん、好き」
「……うん、俺も」
俺、相当にやけてるんだろうなぁ。
もっと、って言ってくる名無しさんちゃんに今度はこっちからちゅーしながら、これからどうしようかと考えた。
☆
「……ごめんなさい」
「可愛かったからいいよー」
「……忘れてほしいなぁ」
「やだ」
「真琴くん……」
「まこちゃんでいいよ?」
「…………!!!」
.