真琴の彼女で高校生活

□4月
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桜。ほのぼの。









 暖かくなり始め、吹き抜ける風も心地良い季節。



「わぁ、おっきな桜」
「あっちはもうもう散り始めてるな」



 みんなでお花見しようよーと誰かさんが言い出して、結局いつもの顔ぶれで近くの公園にやってきた。

 まさに満開。
 見渡す限りの桜の桃色は眩しい。


 撮って撮ってとはしゃぐ渚に携帯を向けながら、ふと真琴は言った。



「あ、……ねぇハル、凛。覚えてる?」



 欠伸していた遙が彼を見て、後ろの太陽に眩しそうに目を細める。
 渚達と一緒にはしゃぐ名無しさんを目で追っていた凛は唇を尖らせたまま首を傾げた。



「小学校の時凛が言ってたやつ。桜のプールで泳いでみたい、って。」
「……覚えてない」
「なんでんなこと覚えてんだよ」



 ぷいっと顔を逸らす遙は明らかに覚えている。
 凛は気まずそうに顔を歪めて首の後ろに手をやった。

 2人の反応に真琴は吹き出したが、笑って桜を見上げる。



「今なら泳げるかも。小学校行ってみる?」
「めんどくさい」
「行かねー。さみーし」
「はは、言うと思ったけど」



 あくまで意地を張る(ように見える)2人。

 どこから聞こえていたのか、渚がずいずいと顔を出した。



「桜のプール!?何それ面白そう〜!」
「何言ってるんですか。桜の時期に泳ぐなんて自殺行為です」
「もー、怜ちゃんマジレスしないでよぉ!」



 追い掛ける渚と逃げる怜は非常に仲睦まじい。



「桜のプール……」



 名無しさんは1人、唇に指を当てた。















件名:名無しさんです
本文:明日の午後1時、岩鳶の銭湯に水着持参で集合してください(T_T)



「……何で銭湯?」
「わかんない」
「……何で風呂に水着?」
「知らないよ」
「……何で顔文字泣いてんの?」
「間違えたんじゃない?」



 という一斉送信のメールを花見に言った日の夜受け取った5人は翌日、名無しさんに指示された通りに行動していた。
 実に彼女に弱い男共である。

 しかし時間通りに某銭湯に着いても名無しさんの姿はなく、にーちゃんたち待ってたよーさーお代はいいから入って入ってーと店主に急かされるまま脱衣所に向かわされた。



「いいじゃんおっきいお風呂!僕一番乗りー!」
「渚くん!走ると危ないですよ!」



 ぶつぶつ文句を垂れる凛に乗り気の渚はそう言うと、昔鮫柄のプールに飛び込んだ時とデジャヴを感じるテンションでがらがらと戸を開けて行った。
 眼鏡を外した怜も彼に付いていく。

 残された凛と真琴。



「……あいつらガキか?」
「あはは、渚たちの住んでる所には銭湯とかあんまりないからじゃないかな」
「ハルは?」
「もう行ったよ」
「渚一番じゃねーじゃねーか……」



 遙はいつものように一瞬で脱ぐと真っ先に入っていったらしい。
 ちなみに銭湯でも競泳水着なのは遙だけである。


 苦笑いのまま戸を開けて声のする奥へ進むと、そこには。



「――わぁ、」
「……すげ」



 昨日見た桃色と同じ花が一面に浮かんでいた。



「あっ、まこちゃん凛ちゃん!すごいよねこれ!」
「渚くんは掛け湯くらい知っておいて下さいよまったく……」
「桜のお風呂だよ!」



 渚がお湯をばしゃばしゃと弄びながら笑う。
 怜の反応的にそのまま跳び込もうとしたらしい。

 シャワーを被った真琴と凛は再度その花の多さに驚く。
 この数の桜を集めようと思ったら相当手のかかる仕事なのではないだろうか、と。


 肩まで浸かって、今日は泳がず大人しい遙を横目で見ながら浮かぶ桃色を手に取った。
 お湯まで桜色に見える。



「綺麗だねー」
「うんうん、って名無しさんちゃんだぁ!」
「!?」
「あ、怜ちゃんが気絶した」



 後ろから聞こえた声に渚は驚き、怜は振り返った途端に真っ赤になって湯に沈んだ。
 大変だーと急いで救出する。


 Tシャツ姿の名無しさんがいた。



「おま、えッ、何で男湯っ、馬鹿か!?」
「ちゃんと水着着てるもん。それにちゃんと貸し切ってるよ」



 ほら、と裾を捲ろうとしたので、全力で止めた凛。
 そんな焦らなくても、と真琴に言われてキレかけた。



「これ、名無しさんちゃんが?」
「知り合いのおじさんにお願いしたの。桜はみんなで協力したからまだまだ追加できるよー」



 がさ、と横からポリ袋を見せる。
 中には桜が詰まっていた。
 名無しさんの人間関係は広きに渡るらしい。


 湯船の縁に頬杖をついて、名無しさんが笑う。



「いい感じでしょ?」
「ありがとう。……よかったな、凛」
「……別に、……っ」



 桜のプールは叶わないが、これだって充分すぎるくらいだ。
 
 小学校の頃言ったことがまさか現実になるとは思わなくて、しかも実現させたのは惚れた女で。
 目も合わせられないくらい照れくさい。

 でも、じっと見詰めてくる彼女の視線を感じると、そんな意地の心は折れてしまった。



「だぁあわーったよ!!……サンキュ」
「……なんか、そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしいよ」
「はァ!?――っ」



 手で頬を覆った名無しさんが笑うから、それに目は釘付けになって離せない。
 
 動揺しているのまで見通されそうで、凛は顔を逸らして口元まで湯に浸かった。













「私も入りたいなぁ」
「俺の隣おいで?」
「うんー」

「……抜かりねぇ〜」
「まこちゃん流石ぁ」
「おいアイツは?」
「怜ちゃんならまだあっちで寝てるよー」







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