真琴の彼女で高校生活

□7月
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夏休み。裏。










 弛緩した身体がベッドに倒れ込むより早く、再度抱き抱えられた。くるっと向かい合わせにされる。ちゅ、と唇を吸われて、彼の首に掴まるように縋り付いた。
 その間に自分の中から引き抜かれ、未だひくつくその感覚にぞくりとする。

 最中も背中や首にずっとしてた癖に終わってもキスから解放してくれなくて、次いでまた脚にあたるそれが固くなってきたことに気がついて驚いた。 


「は……待って、真琴くん、ッ」
「ん?」

 
 顔を背けて胸を押す。せがむようにまた顔が近付いてきても、今度はぐっと押し返した。
 
 ん?なんてとぼけた風に笑われても、彼はその気なのが隠し切れてない。
 熱い息や視線が私をくすぐって、思わず条件反射で胸の辺りやお腹がきゅんとするのを悟られないよう我慢する。

 だって真琴くんにとっては2回でも、私の方はもっとその倍以上達してる。
 さっきも最後真っ白になって、飛びそうになった意識をキスで無理矢理戻されたようなもので。

 今日は一緒に課題やろうよ、って呼ばれたから期待せずにお邪魔したのに、もしかして程度の事が起こった。
 その服めちゃくちゃ可愛い。っていうか名無しさんちゃんが可愛い。ねぇ、してもいい?なんて言われてキスされれば、私はもう断れなかったのだけど。
 いつも服を脱がされるタイミングでくるっと反転させられて、そのまま後ろから襲われてしまった。結局服は着たままで、2回目脱ごうとしたときには腕を後ろで纏められて動けなくて。
 乱れはしてるけどまだ着たまま、下着だけ脱がされて放られてる。

 ……詰まるところ、疲れました。


「ちょっと、休ませて……ね、」
「やだ」
「やだって……」
「俺も余裕ないって言っただろ」
「言ったけど、っん」


 幼子を諭すように言われて、え、私が悪いのと返したくなったけどまた口を塞がれてしまった。
 
 二回終わってまだ余裕ないってどういう身体してらっしゃるんですかあなたは。体格は岩鳶水泳部一だと思うけど、体力や性欲もなんですか。

 舌を絡めて、吸って、上顎を擦って、離すのは一瞬で。
 なんて蕩けた口付けは、彼を完全にその気にしてしまったようだった。

 慣れた手つきで私がくすぐったがるところに触れる。


「あ、――」


 私の胸に顔を擦り寄せた真琴くんを見下ろせば、普段と同じようにふわふわした笑顔で見上げられた。

 ……ああ、もっと健全な長期休暇を送りたい。














 荒れた息を整えていると、真琴くんがふにゃっと笑って頭を撫でてきた。その指が髪を梳いて、何度も何度も往復する。
 撫でられるのは好きだけどときめいてる余裕はないから、ただ目を閉じた。

 気持ちいい。このまま寝たい。でも色々ぐちゃぐちゃで気持ち悪いからシャワー借りたい。服も替えたい。でも眠い……。

 と思ってうとうとしだしたら、なんと携帯電話が鳴った。
 私の着信音じゃない。真琴くんのだ。

 重たい瞼を持ち上げて、ベットに腰掛けて液晶をなぞる真琴くんを見る。
 ……かっこいいなぁ。


「もしもし?……ああ、渚?…………今から?えっと、んー……ごめん、ちょっと待って」


 通話口を逸らして軽く押さえて真琴くんが言った。


「渚達が来るって」
「っ、嘘、やだ、今から?」
「うん。大丈夫?」
「断れるの?」
「無理かな」
「……」


 衝撃。
 
 今から渚くん達が来る?達ってことは遙くんや怜くん?
 は、待って、今完全に目が覚めた。
 無理だ、でも断ったら怪しまれるというか渚くん鋭いからだめだ。
 水泳部の彼らのことだ、きっともう計画も無しに近くまで来てる。


「大丈夫だよ。……うん。……うん、わかった。じゃあ」


 がばっと私は身体を起こす。


「……まじですか」
「まじです」
「じゃあ、……えっと、お風呂貸して?」
「もちろん。一緒に入ろっか」
「……何分で来ちゃう?」
「10分だってさ」
「……」


 想像通り、時間がない。
 私が入ってその後交代、っていうのはできなさそうだ。
 仕方ない。


「いいけど何もしないでね」
「ちぇ」
「ちぇじゃない!あ、服、これもうだめ!」
「俺の貸すよ」


 嫌な熱や匂いは隠せない。
 窓を開けてドアも全開、換気扇を回した。

 ……それから。
 あれはいつも通り私が帰りに公園に捨ててこよう。














 真琴くんの服は、中学生の頃のものでも充分大きかった。いくつからあの身長なんだろう。
 オレンジ色のTシャツと短いパンツでなんとか現代の女の子になれた。


「あれ、名無しさんちゃん来てたんだ!」
「課題が捗らなくて一緒にね……あはは」


 渚くんが私の顔から下へ他人は気付かないくらい一瞬、視線を下ろした。

 隣の遙くんが渚くんとは真逆、じいいっと私のTシャツを眺める。


「……名無しさん、その服はむぐっ」
「しーっ!ハルちゃんしーっ!」
「?」


 笑顔のまま遙の口を塞いで抱き着いた渚くん。
 遙くんははてなマークを浮かべて、すぐ興味なさそうに落ち着いた。

 見たことがある、気がする。……とか、それだけ言いそうな雰囲気だったなぁ。
 渚くんが察してくれたのは幸なのか不幸なのか。

 怜くんが一人そのやりとりに首を傾げている。


「さ、さーお邪魔しまーすまこちゃん!」
「お邪魔します。……渚くん、さっきのはどういう意味ですか?」
「怜ちゃんは知らなくていいの!」


 律儀に靴を揃えながら怜くんが訊いた。
 部屋の場所をわかってるらしい渚くんが怜くんをやり過ごしながらずんずん進んでいく。

 3人を眺めながら私たちは顔を見合わせた。


「流石渚、真っ先に気付いたね」
「あの子ほんと鋭いよね」
「うん」
「……真琴くんが最後まで脱がせてくれなかったからだ」
「自分で脱げばよかったのに」
「後ろで手持たれたら動けません」
「ごめん、だってあの服着た名無しさんちゃんが可愛いからつい」
「ばか」


 そこに、渚くんがひょこっと顔だけを覗かせた。


「まこちゃーん?名無しさんちゃんも何してるのー?」
「あ、今行くよ」















「何でドアも窓も全開で換気扇回してるんですか?」
「エ、エコだよ」
「あっつ……。こんな暑いのに二人とも汗かいてないよね〜。ここで宿題やってたんでしょ?」
「……渚、アイス食べる?」
「わーい!食べるぅ!」
「策士だ……」







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