真琴の彼女で高校生活

□9月
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体育祭。ほのぼの。









 じりじり照りつける日光は、毎日の部活で慣れてるとはいってもやっぱり熱い。


「暑……」


 体育祭。
 大抵クラス対抗で走ったり跳んだり踊ったり色々忙しい学校行事だ。気合いの入った子と入ってない子の差がすごく激しい行事でもある。
 ……俺はまぁ、普通かな。

 なんて思いながらテントの端でぼーっと男子クラス対抗リレー選手の様子を眺めていると、物凄くにやけた表情のクラスメイトが声をかけてきた。


「次女子のダンスじゃん!」
「ダンス?」
「応援のヤツ!毎年めっちゃ可愛いって評判らしいぜ」
「そうだっけ」


 聞いたことくらいはある気がする。

 ……ん?女子?

 そういえばクラステントにはリレーに出ていない男子しかいない。女子は……あ、入場門に集まってる。
 そっか、だからさっき名無しさんちゃんいなかったんだ。

 リレーが終わって男子が退場するのと同時に女子の高いかけ声が聞こえて、黄色いふわふわした……ポンポン?を持って走ってくる。チアガール、って程でもないけど中々短いスカートに半袖の服は目に眩しい。
 綺麗に整列した後、テレビでよく流れてるアイドルの曲が流されてきた。

 ……あ、名無しさんちゃん見つけた。
 
 楽しそうな笑顔に思わずつられてしまう。
 他の子も可愛いと思うけどやっぱり名無しさんちゃんは別格だ。いつもと違う髪型ってだけでもどきどきする。スカートがひらひらして、白い脚と黒の靴下のコントラストが眩しいくらい綺麗で。

 やばい、可愛い。何で携帯教室に置いてきたんだろう。写真誰か撮ってないかな。詐欺みたいな値段でも元のデータごと(コピーじゃなく)買い取ってやるのに。


「なぁ、名無しさんって胸でけーよな」
「あ、俺も思ったそれ」
「クラス一じゃね?揺れてる揺れてる」
「声でけーって聞こえたらどうすんだよ!」


 ふと聞こえた声に自分の眉が寄るのがわかった。


「……」


 聞こえた名前は確かに名無しさんちゃんの名前だ。

 内容は内心鼻で笑えたけど、目線は踊ってる名無しさんちゃんから外せなかった。
 というかどうでもいい。クラスに名無しさんちゃんが振り向くような男がいると思ってないから、誰だっていい。

 は、胸が大きい?そんな所しか見られないなんて下らない。
 そりゃあ勿論名無しさんちゃんは顔も可愛いし細すぎなくて抱き締めても柔らかくて気持ちいいしすぐキスマーク付いちゃうくらい色白でクラスの女子だけじゃなくて学校中でも一番だと思うけど、ほわほわした雰囲気やわかりやすい表情や色々頑張ってくれるところや聞き上手なところもすっごく魅力的だし、意外と読書家で国語が得意で料理は特別上手って訳でもないけど凄く丁寧だしちょっと悪戯も好きでちょっかいとかかける時もあるしめちゃくちゃ可愛い冗談だって言うのお前ら知らないだろ。

 まだ言える気がする。小一時間説いたって足りないくらい。


「可愛いしさぁ、俺狙っちゃおっかな」
「彼氏いるっつーの」


 でも、流石にその台詞にはかちんときた。


「んなもん関係なくね?別にいてもいなくても」
「お前馬鹿か!その彼氏が……あーあ、俺知らねっ」
「は?どこ行くんだよ!おい!!」

 
 ちらっと見てみれば、クラスでもお調子者で有名な子だった。
 口は上手くて強引だから、ひょっとしたら名無しさんちゃんも拒否できなくて流されちゃうかもしれない。
 それは困る。 

 うん、さっき逃げた奴はいいや。問題はこいつ。

 いつも通り朝、おはようって声をかけるみたいに言った。


「ごめん、ちょっといい?」
「……ウィッス」















「お疲れ、名無しさんちゃん」
「あ、真琴くん」


 着替えて髪型も戻ってタオルで自分に風を送ってる名無しさんちゃんに声をかけると、疲れてるのかふにゃっとした笑顔が返ってきた。

 可愛かったよって言いながら俺のジャージを名無しさんちゃんにかける。
 あの子はもうごめんなさい許してください俺が悪かったですって言われるくらい言い聞かせたからもう大丈夫だとは思うけど。でも、きっと他にもいるから。


「……暑いよ」
「いいから」
「私汗かいてるし」
「大丈夫」


 名無しさんちゃんはちょっと困ったような顔をしたけど、すぐにかけたジャージに腕を通す。
 ……相当袖余ってるし脚まで隠れてる。何これ可愛い。

 とか思ってると今度は名無しさんちゃんが、手を顔を覆うように上に持っていった。すん、と鼻を鳴らして、目だけ覗かせて俺を見る。


「真琴くんの匂いー」
「…………」
「でもやっぱり暑いよ」
「だーめ」


 可愛い。死にそう。
 そうだジャージ貸そうと思いついたさっきの俺を全身全霊で褒めたい。
 何で携帯ないんだよ。誰か貸してくれ本体ごと買い取るから。


「……真琴くんどしたの?一人殺してきたみたいな顔してるけど」
「あはは、そんな物騒なこと言わない」


 ただちょっと教えただけで殺してない。
 そのせいで名無しさんちゃんのダンスは後半見られなかった。
 そうだ、名無しさんちゃんに今度ひとりで踊って貰おうかな。絶対恥ずかしがってやらないと思うけど、その顔もきっと可愛いんだろうな。















「束縛っていうか……防護って感じだよな」
「だな」
「お前見てるなら助けろよ」
「ごめん、橘とは仲良いままでいたいんだ」







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