GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□春祭り
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ある日呼びつけられて、テーブルに座って待っていた。

数分後。



「聖司さま、こちら召し上がってください」



目の前に2枚の皿が置かれて、つい持ってきた彼女を見上げた。



「片方がわたくし、もう片方はこちらのシェフが作ったものですわ」
「……?」
「勝負しておりますの。どちらがあの味に近いかお応えくださいませ」
「??」



ちょっと意味が理解できなくて、皿の上のものを見つめる。

同じような見た目だ。
丁寧に盛られたそれはかえって不恰好にすら見えた。

微笑みながらこちらを見つめる美奈子の後ろには、いつものシェフがいる。
付き合わされたんだろうな、と同情しながら、出された箸を掴んだ。



「……」
「……」
「……」



口に入れると、緊張した空気が張るのがわかった。
たかがたこ焼きひとつでそこまで本気になるなよとも思いながら、仕方なく乗ってやることにする。

むぐむぐと咀嚼し嚥下した。


どちらも恐らく同じ機械で焼かれている。右の方がしっかりと火が通っているが、左は若干通りが甘い。
そして鼻に抜ける匂いも、右の方が複雑に感じた。左は単純で安っぽい。
生地も同じく、左はほとんど香りのしない小麦粉であることがわかる。


……馬鹿馬鹿しい。
何を本気で味わっているのだろうか。


何も考えずに、思った方を指差した。

左。



「こっちが似てる」
「……!」



美奈子の笑顔が輝いたのを見て、やっぱりなと思った。



「美味いよ」
「!!」



呆れた溜息混じりにぼそっと言うと、彼女が後ろを振り返った。
苦い顔をしたシェフと顔を合わせ、対照的に笑う。



「やりましたわ!ご覧になって?おーっほっほっほ!」
「……」



悪役のような高笑い。

くそう、などと悔しがるシェフもまたふざけているが、どちらも本気で挑んでいたのがわかった。



「こっちがおまえだな?」
「ええ。嬉しいですわ〜」



設楽の方へ向き直ると、美奈子は口元を手で隠しながら笑みをこぼす。



「どうやって作った?」
「はい?」
「だから、どうやって似せたんだ」



確かな腕を持つ料理人には、逆に作れない味だ。
何度試させても違っていて、首を傾げたのに。



「材料を同じものにしただけですわ」
「へぇ」



この家には質の良いものしかございませんのでスーパーで買い直しましたの、なんて誇らしげに言う。

……ふうん。と少しだけ感心する。
気合いを入れて作る時はどうしても材料の質を上げがちだが、逆に下げることで出せる味もあるらしい。
というかあの安い屋台での食べ物なのだ。考えてみればそうかもしれない。



「やりましたわ〜!」
「うるさい」



シェフとあれやこれや盛り上がる美奈子を見て、思わず笑ってしまった。









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