GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□花見
4ページ/4ページ







一面、ピンクの花がふさふさと茂って揺れていた。



「わぁ……っ」
「……ふぅん。ちょうど見頃だな。いい色だ」



日傘を片手に美奈子はあちこち見渡し、桜並木の道を歩く。
時々設楽の姿を確認するように振り返った。



「きれいですわ……」
「平凡な感想だな」
「あら」
「でもその平凡な言葉がぴったりだ」



軽く風が吹く度に木々が揺れ、花弁を散らしていく。
春の柔らかな日差しに照らされた桜は正に満開を迎えていた。

少し開けた広場に出ると、シートを引いて弁当を食べている家族やベンチに並ぶ恋人たちが花見に興じていた。
キッチンカーも停まっていて、皆ここで団欒していくのだろうとわかる。

ふぅん、と横目でそれらを見ていると、美奈子が設楽の袖を控えめに引いた。



「あちらの道は人が少なそうですわ」



広場の奥を突き抜けるようにまだまだ道が伸びている。
行きましょうと先へ進む彼女の日傘を追いかけた。


ふと美奈子が服のポケットから携帯電話を取り出した。



「これ、写真も撮れるそうですの」
「ん?」
「……これでしょうか。カメラ……まぁ、本当でした」



まるで初めて双眼鏡を覗いた子供のようにくるっと一回転して景色をカメラ越しに眺める。



「撮ってもよろしいですか?」
「勝手にしろ」
「せーのっ」
「俺か。何が楽しいんだ」



真っ直ぐ設楽に向けてボタンを押した。

パシャ。
パシャ。
……パパパパパパシャ!
と、明らかに単写ではない音が響く。



「しつこい」
「うふふ、幸せですわ」
「はいはい……」








.


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ