GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□四手のための
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ひぃ、と鍵盤に突っ伏すように項垂れる美奈子。
ふん、と鼻で笑う設楽。



「初心者程度にはなったか」
「くたびれましたわ〜」



スパルタ教育のように小うるさく言われながら引き倒して数時間。
設楽に必死についていこうとした結果かは不明だが、美奈子指の硬直の頻度は落ちて旋律として成り立つ程度に弾けるようになっていた。
そんな暇は与えられなかったが心底自分でも驚き、少しだけ昔を思い出した。

凝りきった肩や背中をうーん、と伸ばす。
対して、涼しい顔をした彼は表情も変えずに言った。



「明日もやるぞ」
「ええっ!?」
「明後日もな」
「そ、そんな……」
「まだ固いんだよ。おまえ」
「そんな、毎日……」



震えた声で縮こまる美奈子。

絶望か嫌気か疲労かと思われたが、



「いいんですの……!?」
「……」



感動しただけのようだ。



「夢みたいですわ。ビデオを撮ってお葬式で流します」
「葬式……?」
「きっと涙がちょちょ切れますのよ」
「ちょちょ……?」



一気に輝かしい笑顔に変わった彼女が吐く意味不明な感動の表現に首を捻る。



「ありがとうございました。おやすみなさいませ。良い夢を」
「……。ああ」



良い夢、ね。

久々に程良く疲れる程度に弾き倒したしよく眠れるかもしれない。等と思いながら、彼も寝る支度を始めることにした。

……自分ももう、まともに練習しなくなって何年経つだろうか。
たまに美奈子に言う台詞が自分に効いている気がして不機嫌に拍車がかかる。








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