GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□枕片去る
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眩しい。
瞼が重い。



「おはようございます、聖司さま」
「……ああ……?」



設楽はピアノの前に座っていた。見慣れた光景だ。
ふと隣を見ると、はるか向こうに美奈子が座っている。

遠い。
近づかないと2人では弾けない。

……何故、あんなに遠くにいるのだろうか。
早く横に座れ。ヘラヘラするな待たせるな。


腕を伸ばした。



「失礼いたします。制服でございますわ」
「……?」
「あら、まだ眠そゎきゃぁっ!?」



伸ばした先に彼女の腕の感触がしたので、手首を掴んで遠慮なく引っ張った。
強く引きすぎたのか美奈子は後ろ向きに倒れ込んでくる。

目の前に彼女の後頭部がある。

……流石に近すぎたか……?
だがこれでやっと弾ける。



「え、わ、あ、あの、聖司さま、その」
「……?」
「ちょ、ちょちょちょ」



シーンが変わる。

何故か自分はじたばたと暴れ回る獲物を抑え込んでいた。
キュイキュイと悲しそうな鳴き声を上げる憐れな被食者は、背中を取られて動けないようだ。



「た、大変嬉しい気持ちではございますがあのわたくしにはえっと身に余るといいますかその余りすぎて火がついて爆発してしまいま……っ」



ギブアップとでもいうように、獲物の身体に回した腕を叩かれる。



「〜〜〜ッ!!」
「ん?」



胸の中の何かがぐるりと姿勢を反転させて、それから思い切り胸を押し返してきた。
抜け出した何かは起き上がり、逃げていく。

何だこれは。
狩りなんて趣味じゃないし経験もない。何より素手で抑え込むなんて野生的すぎる。


……。


……眩しい。
朝だ。



「うわっ……夢か」
「うわ夢かじゃございませんわ!?何を考えていらっしゃいますの!?」
「……朝からうるさい」
「うる……っ」



いつの間に返事をしたのか覚えていないが、起こしに来たらしい美奈子が何やら喚いている。

真っ赤な顔でぷるぷるとか細く震えながら、信じられないというような目でこちらを見ていた。



「聖司さまの馬鹿!!女たらし!失礼いたしますっ!」



ぷん、と顔を背けて彼女は踵を返す。
いつもより少しばかり荒く閉められたドアの音に違和感を覚えた。



「何で怒ってるんだ……」



眠い頭を軽く回転させながら身体を起こす。
そこで、さっきまで自分は寝ていたのだと思い出した。



「……あっ」



そして気付く。


あれ、夢じゃなかったのか。









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