GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□きまぐれどんどこ
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転んだ拍子に制服が破けた。
その後よくわからない金髪の柔道部に追いかけ回されるし、散々な一日だ。

家に帰って迷った末、仕方なく美奈子に伝えると、二つ返事で繕ってくれることになった。

そうして今、彼女がソファーに座って膝に制服を乗せてちくちくと針を動かす様子を見守っている。
器用なものだ。あんなに細く短い尖ったものを摘んでどうのこうのするなんて自分にはできない。
彼女は、最初は雑巾を作るところから練習しましたのよ、とか何とか言っていたがよくわからない。



「雨が続いておりますわ……はぁ」
「だから何だ」
「お洗濯物が乾きませんの」
「ふぅん」
「あら興味なさそうですこと」
「ない」
「そうでしょうね」



目線を落としたまま美奈子は続ける。



「紫陽花ってとっても綺麗なんですのよ」
「庭のか?」
「ええ。手入れを花屋敷のおばあさまから教わりましたの。それでね、綺麗だから何本か飾ろうと思ったのですけれど」



きゅっ、と糸を引っ張る。



「ご存知ですか?紫陽花の花言葉、浮気とか移り気、だとか。そんなの飾れませんわ。色で変わるみたいですが」
「そこまで考えるんだな」
「ええ。花が好きな方は大抵そういうのが好きですわ」
「へぇ」
「わたくしも好きです」
「ふぅん」
「あら興味なさそうですこと」
「ない」
「そうでしょうね」



生地に添えた針に糸を巻き付けて結ぶと、小さな鋏でちょんと切った。

広げて確認し、綺麗に折り畳む。



「終わりましたわ」
「喋りながらよくやれるな」
「教えてさしあげましょうか」
「いやだ。指を刺したらどうする」
「まぁ、盲点でした」



はいどうぞ、と差し出される制服。

設楽が受け取ると、残った糸を纏め、道具を裁縫箱に片付け始めた。



「ありがとう」
「!」



素直に言った彼に驚いたように顔を上げてこちらを見てくる美奈子。

嬉しそうに微笑んだ。



「その一言で何でも頑張れますわ」









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