GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□糸切り鋏
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「聖司さま。お布団を夏用に変えておきましたので心地悪ければ仰ってくださいませ」
「ああ。助かる」
「!? え、ええ」



華麗に二度見された。

気のせいかしら、と首を傾げて美奈子は続ける。



「色々と衣替えですわ。明日コートなんかをクリーニングに出そうかと。持ち出してもよろしくて?」
「出しておけばいいか?」
「えっ?いえいえ、その、見られたくないものがあるのでしたら開けませんけれど」
「別にない」
「……?」



訝しげな表情をした彼女は、少しばかり考えてから恐る恐るというように唇を開いた。



「……。今日お買い物に行ったらね、お魚が安かったんですの」
「ふぅん。魚が好きなのか?」
「……ええ、何でも好んでいただきます……わ……?」



やっぱりおかしい、と美奈子は確信した。
ちょっと前まではへぇとかふぅんとかどうでもいいとか、そんな生返事ばかりだったのに……と思い、つい訊いてみる。



「聖司さま、今日は何故か素直ですわね。お優しいですわ」
「今日はってなんだよ。悪いか?意地悪な俺がいいのか?」
「いいえ。変わらず素敵でございます」
「……」



さらりと讃えてくる美奈子。
言い返そうと思ったが言葉が出てこない。
黙る気はなかったのに唇を閉じてしまい、不本意な沈黙が訪れた。



「調子が狂う。でてけ」
「あら。調律師が必要ですわね」



楽しそうに言って美奈子は言いつけ通り出て行った。

彼女はたまに冗談めかして言い返してくる。
従順なだけかと思っていたら負けず嫌いな部分もあるようだし、皮肉を言っても悠々と流されてしまう。
会話の中で感じる心地良さは中々言語化できない。何と言えばいいのだろうか。

やれやれと設楽は溜息を吐いた。









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