GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□夏祭り
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頼んでいたものが届いたのでふぅんと軽く中を確認していると、美奈子が通りがかって寄ってきた。



「あら、なんです?」
「開けていいぞ」
「……まぁ、綺麗な浴衣」



桐箱に入ったそれを見て声を上げる。
片方には紺の、もう片方には紫の浴衣が1着ずつ納められていた。



「そっちはおまえのだ」
「……はい?」
「祭り行くだろ?空けとけよ」
「!!」



ぱぁ、と目を輝かせる美奈子。
はいっと元気な返事をひとつ、すぐにまた浴衣に視線を落とした。
珍しいのか、隅から隅まで眺め回している。



「自分で着られるか?」
「お恥ずかしながらできません」
「別にいい。呼ぶから」
「次は着付けを覚えたいですわ」
「プロがいるんだから任せればいいだろ。パンクするぞ」
「んん……じゃあ、またいつか」



いわく、ハウスキーパーの者から家事以外にも色々と教わっているらしい。
一体何者になるつもりなのだろうか。



「ふふ、晴れるといいですわね」
「予報だと問題ない」
「あら、もう見てくださったの?」
「別におまえのためじゃ……」
「?」
「……いいだろ。無駄になっても困る」
「ありがとうございます。身に余る幸福ですわ」
「言い過ぎだ」


















当日。
歩きづらそうに部屋から出てきた美奈子。



「いかがでしょう。良い色ですわ。ご手配ありがとうございます」
「ふうん……」



手持ち無沙汰で無意味に扇子を開いたり閉じたりしていた手を止め、設楽は彼女を上から下まで見回した。

薄い紫と水色の花が控えめに遇らわれたシンプルな紫の浴衣。
普段よりも丁寧に編み込まれた髪や見慣れない飾り。
彼女の姿勢の良さも相まってとてもよく似合っていると言わざるを得ない。
が、そのまま伝えるとどうにも調子が狂わされそうなので当たり障りのない言葉を探した。



「……夏らしくていいんじゃないか」
「聖司さまはとってもお似合いですわ。今のお写真をわたくしの遺影の隣に飾っていただきたいです」
「何で毎回葬式基準なんだ。二度と言うな」
「わたくしの中で最上級の言葉が見つかりませんの。語彙が足りなくてお恥ずかしい限りでございます」
「おまえの言い回しはわかりづらいんだよ。行くぞ」








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