GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□冬
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ある日。
部屋を出ると何やら1階が騒がしい。

階段を降りながら覗いてみると、美奈子が浮き足立っていた。
ハウスキーパーの面々も揃っている。



「聖司さま、雪ですわ!」
「雪がどうした」
「雪が積もっておりますの!」
「冬なんだから雪ぐらい降るだろ」
「雪かきというものを学んでまいりますのよ。楽しみですわ」
「おい、その格好で……」



いつもの長いワンピースに薄っぺらいコートを1枚羽織っただけの彼女はシャベルを片手に玄関を出て行った。
他の者たちはちっとも楽しくなさそうな複雑な笑みを浮かべながらそれに続いていく。



「犬か何かか……」



喜び庭駆け回る、だったか。等と有名な歌詞を思い出して呆れた。
毛皮もない癖に。
どうせ震えながら戻ってくるのだろう。



「……ったく」









1時間ほどすると雪かき隊が戻ってきた。



「楽しかったですわ!もう腕が上がりませんの」
「楽しくなさそうだけどな」



美奈子の後ろについて入ってきた数名は体力を使い切った顔をしている。
無駄に広い庭先や駐車場の雪を払ってきたのなら当然だ。
彼女は元気が有り余っているようだった。年齢の差だけではない気がする。



「お疲れ。飲むか?」
「いいんですの?ありがとうございます。皆さま、こちらに温かいものが」



嬉しそうに後ろの面々にカップを配っていく。



「指がジンジンしますわ。こそばゆい」
「気をつけろよ。霜焼けにでもなったら弾けないぞ」
「あっ、……なるほど、だから昔あんなに口うるさく手袋と言われておりましたのね」
「……」
「雪で遊んでみたいですわ。聞いたことがありますのよ、雪だるま、雪うさぎ、スノーエンジェル、かまくら……雪合戦!」
「話聞いてたか?」



指折り数えながら目を輝かせる美奈子。

この様子だとまたこれも経験がないようだ。
設楽もないが別にやりたいとは思わない。



「雪合戦……」
「俺はやらないぞ」
「……」
「いやだ。そんな目で見ても無駄だ」



じぃ、といじらしく見上げてくる彼女から目を逸らす。

美奈子は思いついたように、後ろでお茶を啜っている数名に歩み寄って何かを話し始めた。
こそこそと囁き合って頷く。

暫くして戻ってくると、真剣な顔で言った。



「では、ハウスキーパーさま方と合戦してまいりますわ。何かご褒美をくださいませんこと?」
「都合よく大人を使うな!!」



勝手にやってこい、とマフラーと手袋を投げ付けて追い出す。

後で窓から覗くと、完成させたらしい大きめの雪だるまをふんふんと満足げに眺める美奈子の姿が見えて笑ってしまった。

年末年始はパーティ三昧で気が滅入っている。
美奈子の奇天烈な楽しみ方を見ていると妙に息抜きになった。

次は初詣に誘ってみようか。
どうせなら振袖も着せてやりたい。何色が似合うだろうか。










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