GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□卒業
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まだ緑色をした桜の木を見上げていた美奈子が設楽に気づいて姿勢を正した。



「聖司さま」



恭しく頭を下げる。



「ご卒業、おめでとうございます」
「ああ」



大学は市内な上に会いたいやつにはすぐ連絡するしべつに……という考えの設楽は名残惜しさの欠片もなく高校を後にした。
一切話したことのないような人間からやれ寄せ書きだの記念写真だのを求められて少々疲れている。

……まぁ、思い返せば色々あったかな。
などと考えながら卒業証書の入った筒で肩をぽんぽんと叩いていると、美奈子が不思議そうに言った。



「あら?制服のボタンが無くなっておりますわ」



朝はきちんと3つ付いていたはずのブレザーのボタンが千切られたように消えている。
残った糸が垂れてふわふわと揺れていた。

言われて設楽も思い出した。



「女子が欲しがるから……」
「……?」



第二ボタンをくださいと言われて、言われすぎて、嫌になって自分でぶちぶちと引き千切ってやったのだ。
どれが第二だかわからないので全部。物陰で。
もうないと返すと全員諦めるので快適だった。



「ボタンなんて集めてどうするんだろうな」
「さぁ……。ーーあ、」



美奈子が首を傾げながら斜め下を向けていた目線を、思い出したように設楽へ向ける。



「……、」



しかし何も告げず、少しばかり不満そうに唇を尖らせた。

……やっぱり、と設楽は思った。
何か意味があるのだ。
あれだけ第二第二と呪文のように繰り返されたのには理由があったのだろう。

それを美奈子はどこかで知っていて思い出して、でももう全て取られたので諦めた、と。
察するのが苦手な彼だが、最近少しずつ理解できるようになっていた。彼女限定で。

ポケットに手を突っ込んでそれらを掴み、美奈子に差し出した。
彼女は反射的に両手で受け取る。



「……あら、ボタン?」
「おまえにやる」
「あげてしまわれたのでは?」
「くれってうるさいから取られたフリして隠してた」
「まぁ……!」



美奈子の目が輝く。
嬉しそうに両手で包み込んで、胸の前で握りしめた。



「おまえの顔はわかりやすい。帰るぞ」
「……嬉しい。ありがとうございます」



先に車へ乗り込むと、何か呟きながら美奈子も運転席へ座ってきた。



「宝物が増えましたわ。ふふ、うふふっ」
「……怖……」



くすくすと楽しそうに笑う声を聞いて、今日ばかりは何故か背筋が寒くなった。










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