黒子のバスケ

□蜂蜜ハニー
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 以前は人目を憚って男子寮に出入りすることを遠慮してた私も、今では何の罪悪感も抱かずにお邪魔したり泊まり込んだりもするようになった。要領を得たのもあるだろうけど、やっぱり敦くんともっと一緒にいたいっていう理由が大きい。
 逆は元より挑戦してない。身体のおっきな敦くんが女子寮に来るのは目立ちすぎるからだ。



「んん、んむぅっ……ぶぁ、」
「んー」



 胡座をかいた敦くんに向き合って抱き着いて、降ってくるちゅーに頭がとろとろ溶けてくる。ふわっと香る甘い匂いも、それと混ざる敦くんの匂いも大好きだ。どこからだってお菓子みたいな味と匂いがする。
 おいしいねって言ったら名無しさんちんもおいしーよってがぶがぶ甘噛みされてしまって、嫌いじゃないけどちょっと痛いからもうやめとこうって決めた。



「はぁ……チョコレートだ。甘ぁい」
「せーかい。名無しさんちん相変わらずちっちゃくて可ぁ愛いー」



 敦くんは眠たそうな目元を更に緩ませて、ぎゅぅうって抱き締めてくれる。

 ……そりゃあ208センチのきみからすれば、ねぇ?私、160ちょっとあって女子的には大きい方なのに。



「……んー、もっかい」
「んん、いいよ」



 何回したって足りなくて、目が合えば顔を寄せてしまう。唇が触れたら押し付けて吸って、それからぱくりと口を開いて噛み付かれたかと思うと舌が割り込んできて。噛み合わせた歯をつつかれて降参すれば、あっという間に根っこから絡めとられてぐちゅぐちゅ擦り合わせてくる。
 混ざった唾液や舌の音、ちょっとだけ荒くなった息。
 目を開ければ気持ちよさそうな笑顔が入ってきて、気恥ずかしくなってまた閉じた。視角も触覚も味覚も聴覚も嗅覚も、詰まるところ五感ぜんぶが敦くんでいっぱいだ。
 きゅんっと心臓が跳ねる。



「ふわぁ、唇ふやけちゃいそう」
「んん?」
「舌ぴりぴりするし……」
「あー、それ俺もなるよ。飴舐めすぎた時とかー」
「……」
「名無しさんちん俺の舌舐めすぎ?」
「そうかも?……きゃっ」



 えいー、なんて掛け声と一緒に敦くんがごろんっと寝転がった。仰向けの敦くんの上に乗っかってしまう。
 体重をかけまいと起き上がろうとしたけど、素早く腕に抱き留められた。それどころか密着するようにぎゅむぎゅむ押し潰されて、あったかいのと苦しいのとでけほっと咳がひとつ出た。



「あ、敦くん……重くない?」
「ぜーんぜん」



 そう答えると敦くんは私の背中にあった両手を下へすすーっと下ろして、骨盤を掴んだ。
 くすぐったい。それに恥ずかしい。



「あぅ、腰持っちゃやだ……」
「なんで?いっつも俺の上でぐねぐねーってぁ痛」
「ばか、もう!」
「うぇー」



 爆弾発言に顔が熱くなって、つい飛び起きてしまった。

 敦くんとするときはいつも私が上だ。その上、動くのだって私がずっと。敦くんはそれが当たり前だと思ってるし、私も別にそれで定着しちゃってるから構わない。

 ……普通じゃないんだろうなぁ、とは思うけど。
 でも敦くんの身長を考えれば普通なんて言葉は使えないだろうし。というかむしろ私が下になってしまえば比喩じゃなくほんとに押し潰されてしまうかもしれない。体重、倍くらいはあるよねきっと。私はごじゅう……エフンエフン。


 ねー怒っちゃったの?機嫌直してよー、と擦り寄ってきた敦くんが可愛くて引き寄せられるがままに抱っこされる。最初と同じように向い合わせで胡座の上に乗せられた。ほんと、ちっちゃい子と大人みたい。



「これ好きー。ぎゅー」
「あ、私も。えへ」



 この体制はどれよりも密着できるから好きだ。脇から手を入れてぎゅうっと抱き着いて脚も敦くんに絡めてその上あっちから首に顔を埋めてくれるからそれに擦り寄ってしまえば、立って抱き合うよりずっとずっと近くてあったかい。

 好きだなぁ、とほくほくしながら大人しく抱っこされていると、突然敦くんが「うわー」とゆるーく声を上げた。



「どうしたの?」
「んー、当たってるなぁって」
「当たって……?」
「ほら、ぷにぷにー」



 何事かと敦くんを見詰めていると、私との間に長い腕が差し込まれて。ちょいちょいっとそこをつつかれた。私の脚の間。その真ん中。



「んきゃぁっ!?わ、わぁ、ごめんっ!」



 どうやら無意識にそこを敦くんの腰に当ててしまっていたというか思い返せば結構ぐりぐりしてたかもしれない。恥ずかしくて身を引こうとするけど、離してくれなかった。






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