黒子のバスケ

□おともだち
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「しゃーねーだろ」



酔っ払った彼の言葉に、その時は何も思わなかった。



「好きになったんだからよぉ」



こんなひとが、私を好きになってくれるのか。
酔った頭でぼんやり思う。



「おまえはかんちがいをしている」
「へー?何を」
「おれがだれにでもこういうことする奴だとおもってんだろ」
「うん、思ってるよ」
「ふはっ」



耳元に笑い声が当たった。

しないから、と力なくそう言って、私の上に覆い被さったまま寝息を立て始める。

ふぅん、とだけ答え、彼を押しのけてベッドへ寝かせた。











「飲もうぜ」



深夜、急に電話がかかってくる。

彼がそう言う時は決まって酔っていて、唐突だ。
毎日が暇で溢れた私の答えは決まってる。



「よ」



一応ノックをしてから、もらった合鍵でドアを開けた。

何の表情でもない花宮くんが顔を覗かせる。
目がふわふわしてる癖に顔色は変わらなくて、多分彼の酔い具合は誰にもわからない。



「お邪魔します」



靴を揃えてフローリングへ踏み出す。

ワンルームの彼の部屋は男の子らしい。
シンプルで、オレンジの間接照明が目を引く。

鞄を置いて、買ってきた袋をテーブルに広げると、電気が消えた。

ぼんやりと映し出される家具の輪郭を眺めていると、花宮くんの頭を肩に感じた。
今日は早いなぁ等と思いながらぽんぽんと撫でてあげる。
きっと疲れることをしたのだろう。頑張ったのだろう。



「お疲れさま」
「あー」



さらさら流れる髪は少しだけ整髪料の感触がした。

私は毎回ちゃんとお風呂に入ってから来ているけど、彼はそんなこと気にしないのだ。
風呂入ってるから勝手に入ってて、と言われることもあった。



「ほんと疲れてるね」
「ん」



花宮くんの香水の匂い。
よくあるやつで、某ネット通販サイトのトップに出ているのを見た。

猫みたいだと考えていたら、顔が上を向いてきた。
かさついた唇が押し付けられる。
そこから舌が絡まるまで時間はかからない。

ああ、やっぱり。
飲まないんだ。












オレンジ色の間接照明。

レイアウトはシンプルだけど散らかっている。
彼女がいない証拠。
それか、そういうのを気にしない相手だということかもしれない。

寝息を立てない彼の寝顔は、同じ大学の女の子では多分私くらいしか知らないだろう。……か。
わからない。


俗に言う、そういうあれだ。
割り切った関係。
恋人ではない。



「……わかってるよ」



この関係が始まった日に彼に言われた言葉がまだ有効かはわからない。
言われてからこうなって、情がわいただけなのかもしれない。
私は彼が好きなのだろうか。わからない。

こうなってしまっては元には戻れないし、今更恋人なんて綺麗な関係にはなれないだろう。

否定、ばっかりだなぁ。

一日おきに連絡が来ることもあるし、2、3ヶ月放置されることもある。
彼が望むときに運良く私も暇なのだ。











「花宮くん、おきて」
「むり」
「9時だよ。2限なんでしょ」
「あとじゅうごふん」
「はいはい」



髪の毛ぐちゃぐちゃでうつ伏せだから顔も潰れている。
かーわいいなぁ、もう。

こんな花宮くん、他の誰が知ってるんだろう。








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