PSYCHO-PASS

□鏡
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 ひゅう、と空気を吸い込む。それだけで辛くて苦しくて、脱力しそうな背中を必死に反らそうと腕に力を込めた。蛞蝓みたいに皮膚に纏わりつく気怠さを振り払うように腰を浮かせる。


「疲れたか?」


 からかいを含んだ声色で背後から問われた。私の下になっているこの男は、動いている方の気も知らないで笑いながら寝転がっているのだから憎たらしい。
 
 答える気力はなく首を振って応じ、悔しさ半分にぐっと再度腰を落とした。


「ッ、ふ」


 ぐぢゅ、と一番奥の方までそれが突き入れられて、息が詰まる。同時に電流のような緩い性感が腰に流れ、ぴくんと肩が震えた。

 目の前に男の脚と女の身体が映し出されている。言うまでもなくそれは私の部屋にある鏡で、映っているのは私と慎也だ。何故こんな所に、とそれを買って配置した当時の自分を恨みながらも、改めて自分の姿を確認する。
 ……薄明かりに照らされる自分の肌はいつになく白く艶めいて見えて、我ながら中々だと思った。

 それと同時に、どうしようもない怠惰感に襲われる。もうずっとこの体制で、私の背中を見ているであろうこの男は動こうとしない。さっきはつい否定したが、はっきり言って疲れた。


「慎也、ねぇ」
「ん?」


 私は、彼の脚についていた手を後ろに滑らせて、鍛えられた腹部に触れながら言った。











「ちが、待っ……あ、やぁあッ」


 驚きと共に、さっきよりも強い圧迫感を感じた。かは、と咳のような息が漏れる。


「じゃあ何で準備してたんだ?」
「っ、」


 後孔に突き入れたそれをずりずりと動かしながら彼は言う。確かに洗浄はしたけど別に期待してた訳じゃなく、もなく、ないんだけど。
 ……何も答えられなくなって、顔を背ける。

 後ろからしてとは言ったけど、後ろでしてとは言ってない。そんな私の抗議を一切受け入れずに慎也は容赦なく動き出した。
 目の前に、苦しそうな顔の女と覆い被さるようにそれを抱いている慎也が映っている。自分じゃないみたいなその表情に動揺しそうになった。でも彼は、それだけの隙すら与えてくれない。


「ひ、ゃ、ふぁ」


 ずる、と引き抜かれる時が一番気持ちいい。慎也と肌がぶつかる感覚も堪らない。突き上げられて無意識に押し出される声も、溶けたような甘ったるい色。……こんなの、他の誰にも見せられないし聞かせられない。


「――!」


 ぐぢゅ、と。慎也の指が前孔を割入った。とろとろになったそこはすんなりそれを受け入れ、しかし格段ときつく締め付ける。
  
 開いた脚を、彼のもう片方の腕が掬った。


「え、ぁ」


 ひょい、とでも音が付きそうなくらい軽々と持ち上げられる。抵抗もできないまま上に乗せられた。
 慎也の顔を見ようと前を見て、ぞわりと背筋が粟立った。


「待っ、慎也、これいやぁ……っ!」


 見えたのは、自分が脚を開いて後孔に男の性器を銜え込む、あられもない姿。熟し切って粘液を零す前孔に浅黒く骨っぽい手が添えられ、ぐちゅぐちゅとひくつくそこを掻き回しているその指まではっきり見えた。
 羞恥心が私の脳を溶かして、じわりと涙が滲む。

 なのに、身体は意志とは無関係のようだ。

 顔を背けようとしても体制のせいでうまくいかず、視線は外せても嫌でも視界に入ってくるその映像は雌としての私を興奮させるのに充分だったようで。私はあっけなく達してしまった。

 びく、と背中が震えて、きゅうきゅうと中が締まる感覚。ふわっと放り投げられたように意識が浮ついて、漂いながら落ちてくるような。あ、あ、と声が溢れて、心臓が早鐘のように鳴った。ばくばくという音が自分の中に響いて、頭がくらくらして、瞼が落ちそうになる。 


「寝るなよ」
「きゃ、」


 嘘、と思った。慎也が片方だけでなく、もう一方の腕を私の膝裏に潜らせたかと思うと、もう一本指をぐっと中に押し込んだのだから。
 とろけきったそこが、後孔に張り詰めた性器を銜えつつ2本の指を呑み込んだことにも、私の身体が更に絶頂へ繋がる快感を感じていることにも驚いた。

 私、いつからこんな厭らしい身体に変わったんだろう。少なくとも以前は後ろで気持ちよくなるようなアブノーマルなことは受け入れていなかった筈、なのに。

 鏡に見せつけるように私を抱きかかえた腕の先、左右から両中指がぐっと私のそこを広げるように蠢く。それはぐちゅぐちゅ抜き差しして、奥を掻き回して、更に人差し指で陰核を挟み込むように押し潰しながら擦り上げる。


「ひ、っく、あ、ああ、ッ」


 腰が砕けそうなくらい強い刺激に、いつの間にか焦点が定まらなくなっていた。ぼう、として、意識と無関係に身体だけが反応する。……また、達した。


「も、やぁ、やらぁっ、はぁく、だして、っ……!」


 舌がまわらない。自分が何を言っているのかすら、この時はわからなかった。

 鏡越しに見た慎也はその言葉に口角を上げたかと思うと、一層指をきつく動かした。乱暴じゃないけど力強い、私を知り尽くした手。好きなように捏ねられて擦られて、じわじわと何度目かの絶頂感が目前にまで迫る。

 その時、ずるりと後孔から慎也のものが引き抜かれた。同時に前からも引き抜かれる指。
 

「あ、……!……!!」


 体内の喪失感と同時に、背中が浮いた。声が出ないほどの快感に、遂に涙が溢れる。

 
「……!!!」


 いった直後のひくついた私のそこに突き入れられるものは、熱くて固い。 
 ずりずりと何度も出入ったかと思うとぐっと私の一番奥を押し上げ、それは吐精した。びゅるびゅると勢いよく数度に渡って精液をぶち撒け、びくびく震えたまま大人しく硬度を失っていく。

 視界がちかちか光って、頭痛がする。息が上がって、過呼吸を起こしそうなくらい苦しい。


「名無しさん」


 名前を呼ばれて肩越しに振り返ると、ちゅうっと唇に吸い付かれた。斜め上からのキスは首が痛くなりそうだったけど、不快じゃない。

 鏡越しに裸の男女が視界に入り込んで、今度こそ私は瞼を下ろした。









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