PSYCHO-PASS

□再会
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またな、と言われて少しだけ眉を下げた。



「うん、……またね」



そう言ったって次呼び出してくれる保証ないくせに。

唇に引っかかった好きという言葉を飲み込む。


そして、最近の私は、臙脂色だ。







重々しい空気清浄機……変換機?のような男はガラス越しに私を見つめている。



「厚生省公安局刑事科一係監視官の宜野座伸元だ」
「……はあ、」



私が馬鹿だからって難しい言葉並べて誤魔化そうとしてるんじゃないだろうな。こいつ。

宜野座と名乗った眼鏡男は日常会話が苦手らしい。
その次、すぐに本題に移った。







ロックグラスがからんと音を立てる。



「堕ちたよねー」
「お互い様だ」



浅葱色の箱を握り潰しながら狡噛は言った。

皮肉めいた口角は変わっていない。
だから私も皮肉を返す。



「まさかあのエリートと同じ職場で働けるなんて思わなかった」
「は、」



煙を吐き出しながら笑って、横目で私を見る。
いつ喫煙家になったのか知らないけど、どうも似合っていて腹立たしかった。

私も半分赤い箱から一本取り出して火をつける。

色も変わらず言葉もしっかりした狡噛が腹立たしい。



「飲み足りないんじゃない?」
「聞いた台詞だな」



この男はこう、ひとつ捻って返してくるのだ。


学生時代こいつはそう言って何回私を潰したか。
そのあとは想像通り、猿猿猿。

大学で出会っても目を合わせるだけのくせに、定期的にぽつりとメッセージを寄越した。


ふぅ、と吐き出す。



「彼女できた?」



そう聞いた途端狡噛は笑いながら眉を寄せた。呆れたように顔を背ける。



「そんな怒んないでよ」
「変わってないな」



吸いかけの煙草を灰皿に置いた。
彼に迫る。



「変わったよ。色々」



狡噛は身を退くでもなく、私にすり寄られる。
グラスを傾けてからそれを置いた瞬間、頭を掴まれた。







おかしい。



「名無しさん、起きろ。遅刻するぞ」



おかしい。
学生時代と同じだ。

私だって更生施設で規則正しい生活を送っていた。
訓練中もちゃんと起きていたのに。



「……あと15分」
「5分だ」



横目で見ると狡噛はもうスーツを着て煙草を咥えている。

対して私は、



「服……」
「その辺に落ちてる」
「……ひろってよ」



ソファーの上でタオルケットにくるまって唸っているのだ。
これがエリートと凡人か。

頭が重い。



「起きたか」
「おきた」



身体を起こした。

……。



「……むり〜」
「毎日起こすのはごめんだぞ俺は」
「やだ、おこして、むり」



直後またソファーに倒れ込んだ私に呆れた声を投げ、その隣に座る。
灰皿に灰を落とし、私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。



「おきた。起きたよ」
「おはよう」



……優しい声出すなよ猛獣がという台詞は欠伸と共に飲み込む。



「だはー……毎朝これか……」
「第一当直ならな」
「むり」



じたばた暴れながら、私は楽しさで緩む顔を隠した。







酔っ払うと誰かしらの首をかじりたくなる。

痛いと押しのけられながらもがりがり噛んでいたら、ふと思った。



「そんな匂いだったっけ、きみ」
「匂い?」
「うん。香水変えた?」
「さぁ」



狡噛に覆い被さって耳元でもぞもぞ話す。

まぁいいや、と脱力した。



「狡噛」



ん、と返してくる声は優しくて、涙腺が緩みそうだ。
年を感じる。



「……前は、私、きっと同じ未来には行けないって思ってたから」



シャツの肩を掴んで、顔を埋めた。

酔っぱらってる。
くわんくわんと耳の奥が鳴り、本心ばかりが口から漏れる。



「きっと、越えたら、依存しちゃうから、って」



好きだという言葉はもう飲み込まない



「もう、いい。いつでも死ねるんだ」
「死ぬなよ」



ほらそうやって優しい。

思ってもないくせに。



「言葉なんて意味ないの。またねって言ったって、何年かかったの」
「お前が濁るからだろ」
「うるさっ」








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