三國無双

□遊興
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痛い。

そりゃあいい歳した男に突き飛ばされればそれなりに転ぶし地面に擦り付けられる。
お陰で掌を怪我した。


「…いたい」


もう一度。
恨みを込めて言ってみる。

目の前の男は真っ赤な顔で、何か言いたそうに口をぱくぱくさせていた。

やっぱりこの男、初めてだったのだろう。
想定通り、計算の内。

私も初めてだったけど、まあいい。
憎たらしいこの顔がこんなに紅潮しているところなんて、そう見られないのだから。


「…、…!〜〜!!」


声にならない叫びを上げながら、鍾会が手の甲で唇を拭う。

そこまで擦らなくてもいいのに。
傷つくなぁ。
まぁいいけど。

さて。

起き上がって言う。


「あれ?英才教育じゃそこまで教わらなかったの?」


誇り高き英才くん、と付け足せば、彼が目を見開いた。
間違いなく怒った。

楽しい。

笑いが抑えきれなくなって、喉が鳴る。
遂にあははは、と声を上げてしまった。


「…馬鹿にするな」


つかつかと歩み寄ってくる鍾会。

制服のスカーフを掴まれた。
引き寄せられる。

あれ?


「ぁ、」


声を上げる隙も、逃げる間もなかった。

さっき私がしたように、いや、それ以上に相当乱暴に。
唇が重ねられた。

私はすぐ離してあげたのに、彼はそうしてくれない。
それどころか、もっともっと深かった。


「ん、んーんーっ」


突き飛ばそうとしても、敵わない。
顔を背けようとすると後頭部を押さえ付けられた。

あれ、もしかして本気で対抗しようとしてる?

ふと唇に割り込んでくる舌に驚いた。


「んぅ、んんッ」


閉じた顎を掴まれて、舌で抉じ開けられる。

私はなんとなく面倒くさくなって、力を抜いた。

口腔を這いずるそれが上顎を舐め取り、ぐちゅりと音を立てる。
それから私の舌が絡め取られた。
逃げる私のそれを追いかけるように動き、ずるずると滑る。

唾液が溜まって気持ち悪い。

軽く喉を鳴らす。


「…は、」


ようやく離れたと思ったら、顎を掴んでいた鍾会の手が背中にまわって更に引き寄せられた。
肩口に彼の顔。


「やっぱり初めてでしょ」
「ッ…」


図星だと言わんばかりに詰まる鍾会。

きっとこれも、赤くなった顔を隠すためだ。

自尊心が強すぎて空回りして。
ああ、なんて可愛い。

顔を横に軽く向けて、彼の耳元で囁いた。


「…私で練習していいよ?」
「――!」


ぐ、と腕に力が篭るのを感じて、笑いを抑えるのに苦労した。









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