三國無双

□You know
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「あ!仲達だ!」


高く舌足らずな幼子の声が聞こえた。

振り向くと、司馬懿の予想通り。
名無しさんが満面の笑みで駆け寄ってくるのが見える。


「…何だ」


豪く冷たい声が出たが、名無しさんは笑ったままだった。
何がおかしいのかわからないが、この子供はよく笑う、と彼は思う。

歳は一桁前半を過ぎた頃。
幼女の癖に親の事情で御偉い地位にいるらしく、有能で端麗。
複数の意味で将来有望と噂されている。

足元に寄ってきた名無しさんがえへへー、と笑った。

そして。


「えい」


掛け声ひとつ跳んだかと思うと、司馬懿に抱き着く。
咄嗟に受け止めたが、彼も流石に驚いた。


「何なのだ貴様は…」


何故かこの子供に懐かれている。
周知の事実だった。

歳の差は20には届かないものの、軽く二桁。
兄妹にしては離れすぎているが親子にしては違和感がある。
ましてや夫婦は有り得ない。
…こともない、かもしれないが。


「仲達、いい匂いー」


緩んだ表情で名無しさんが言った。


「香か?」
「しらない。けど張春華さまとはちがう」


恐妻の名に一瞬眉が寄る。
更に、自分は呼び捨てにも関わらず様付けとはどういうことだと小さく舌を打った。


「旦那様」
「!!」


本人の声が間近で響き、思わず腕の中の幼女を放り投げそうになる。
心臓が跳ね上がり、凍ったように背筋が冷たくなった。

胸の辺り。
さっきの声と同じ距離で名無しさんがけらけらと笑っているのを見て、更に驚愕した。

声真似。
幼子故の観察力の賜物か。

溜息をつく司馬懿。


「仲達」
「何だ」


見ると、予想外に穏やかな笑顔の名無しさんと目が合った。


「張春華さまがしんだらでいいから、後妻にして」


口調ははっきりと。
そして目は真剣だった。








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