三國無双

□思い出
1ページ/1ページ






「姉上!」


ふわぁ、と。
思い切り出た欠伸を見られた。


「なに?」


だるい。
眠い。

女の部屋に遠慮も配慮もなく入ってきたのは弟の司馬昭。
母親は違えど同じ司馬懿の子で、ひとつかふたつ年下だった気がする。


「お願いがありまして」
「…ふぅん?」


普段仕事をさぼったりだるそうに寝ている割に礼儀はなっているところに育ちの良さを感じる。
いやはや、姉としても鼻が高い。
…ほとんど関わりないけど。

そういえばこうして合うのも久しぶりだ。
数年見ない間に成長している。
身長も、声も。

誰?とならなかったことは褒めてほしい。


「いいよ。どうしたの?」





























耳と、首と、胸。
なるほどなと思う。


…数時間前、何年も会っていなかった姉のもとを訪ねた。

久しぶりに出会った名無しさんはなんというか、ものすごく幼く見えた。
俺がでかくなっただけかも知れないが。

身長もこんなに小さかったっけ、とか。
声も肌も目も、変わってなくて。

可愛い、と思った。

姉弟とは言えど母親が違う。
父上に似ているのは、照れ隠しの言動だけだ。
すぐ照れるくせに見栄を張って、結局言い過ぎて後で落ち込む。

懐かしい。


「ばか、余所見しない」


熱っぽい視線が咎めるように俺を捕らえた。

ぐ、と押し込んだまま瞼に口付けると、くすぐったそうに顔を背ける。
喉の奥から搾り出すような声は止まらない。
耐えるように眉を寄せたかと思うと、蕩けた様に目が細められた。


…姉上に頼んだのは、女の扱い方の指導だ。
それも、褥での。

その気になればそこらの女官でも楽に学べたのだろうが、面倒くさい。
最初の女が下手に言いふらしでもしたら格好も悪い。

だったら、姉に学べばいい。

頼んだとき、返事はまず大笑いだった。
まだ童貞なのとか、そんなの適当でいいじゃないとか。
ただただひたすら笑われた。

でも、すぐに真剣な顔に戻って。
私も経験ないから知らない、と言った。

そういえば名無しさんはまだ娶られていない。
男の噂も聞いたことがない。

だけど、まさかまだ生娘だなんて知らなかった。


「っ、名無しさん、」


名前で呼ぶように指導されたが、姉じゃないみたいで混乱する。

散らばる髪と、潤みきった目と、自分を呼ぶか細く甘い声。
堪らない。


「あ、きゃっ」


急に抱き締めたくなって、名無しさんを抱き上げながら体を起こした。


























「ひ、っく」


引き攣った喉から間の抜けた声が洩れる。
可愛くない、と自分でも思う。

自分の体重で思い切り奥まで突き上げられて、腰が重たく痺れた。
縋り付くと耳に口付けられる。

こいつ絶対初めてじゃないだろ、と思う。
導入まではたどたどしかった癖に、本番はこれだ。
演技だ詐欺だ嘘つきだ。

名前で呼べと勢いで言ったが、弟じゃないみたいで混乱する。

汗で張り付いた髪を払ってやると、笑った唇が額に押し付けられた。

どうしようか。
物凄くかっこいい。

筋肉質な男らしい手や腕と、時折細められる切れ長で二重の目に、喉仏の浮いた首筋に滲む汗。

それらを意識して急に締め付けたらしく、昭が笑いながら呻いた。
髪を梳いてくる指が恨めしい。


「ッて」


つい首筋に噛み付くと、仕返しとばかりに強く抱き締められた。


「…昭、いいよ」
「え?」


顔を合わせる。
絡み合った視線は外れない。

思い切り力を入れてやった。


「ちょ、ばッ」


苦しそうに眉が寄せられる。
動きが止まって、一息ついた。


「危ね…っ」


だはぁ、と吐き出された息は熱い。
何するんだと言わんばかりに見詰められる。

だから。
だして、と。
耳元に口を寄せて言ってやった。

びくりと彼が反応したのがわかる。
垂れた前髪と伏せた顔からは表情が見えない。

次の瞬間抜かれたかと思うと引っくり返され、また突き入れられた。
背中が甘く痺れて息が詰まる。

支える腕から力が抜け、寝台に押し付けられる上半身。

昭は私の背中に口付けながら胸を鷲掴む。
更に指の腹で捏ねられてぞくぞくと快感が這いずり回る。

それが腰から上ってくるような感覚が高ぶって、弾けた。

叫び声のようなもの出たかと思うと、びくんと体が撥ねる。
ぎゅうう、と中が締まる。

後ろから昭の短い声が聞こえ、どくりと脈打つ感覚がした。

びくびくと幾度も体が震えて、早鐘のように心臓が鳴る。
ふわふわした感覚が引かない。

荒くなった呼吸を整えながら、胸を掴んでいる手をぺちぺち叩く。


「昭、――ッ」


唐突に引き抜かれて驚いた。
文句を考えながら体を起こす。

振り返ろうとして、抱き締められた。


「…昭?」
「名無しさん、」


思ったより低く、真剣な声色。
顔は見えないものの、きっと声と同じ表情をしているのだろう。


「結婚したい」
「…誰、と」


掠れたような声が名前を呼んだ。









.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ