三國無双

□動悸の動機
1ページ/1ページ





「あとで職員室に来い」


なんて言われたから来てみたら、職員室の奥の部屋に連れられた。

印刷室のその向こう。
応接室のような、いやちょっと違うか。

…そうだ、指導室。
そんな感じ。

何か問題でも起こしたのだろうか。


「先生」


早く帰りたい。

教師の呼び出しという行為は甚だ迷惑であることを彼らは知っているのだろうか。
部活がある者は遅刻し、ない者も自由な時間が削られる。
時間を食う割に長々として眠気で意識の飛びそうな内容で、反省より反抗してしまうことが多い。

とにかく早く帰りたいのだ、私は。


「何の用ですか?」


ごく普通に言ったつもりだったが、司馬懿先生の額に青筋が浮き上がった。
あれ?


「…貴様は」
「はい」
「二者面談を忘れていただろう」
「面談?…………あっ」


ぞわ、とした。
忘れていた記憶が蘇る感覚。

そういえば昨日、日曜日。
午後から…。


「忘れてました」
「……」


二者面談。
模試の結果だとか、志望校だとか、そんなものを話し合う時間だった気がする。

すっぱり綺麗に飛んでいた。

日曜日で、先生はその為にわざわざ出勤したのだろう。
顧問も持っていないし、学校より家で仕事をこなす型の人間だと記憶している。

…怒りを抑え込んだ表情。
次第にそれが呆れのようものになっていく。


「…来週だ」
「え?」


先生は額に当てていた手を外して立てると、私の頭に振り下ろした。
とす、と軽い衝撃。
痛くはないけど、くらっとした。


「忘れてくれるな」
「はい。すみませんでした」
「フン」


項垂れたまま見上げると、先生はふい、と私から目を逸らす。


「罰として配れ」
「うえ」


指差した先にあったのは、紙の山。
進路だの連絡だの、その類のプリント達だろう。

重たそうだし、めんどくさい。


「用は終わりだ」
「え?あ、はい」


ふっと笑う。

先生はチョップしたままだった手で私の髪を一梳きすると、職員室へ立った。


「…ええと、」


撫でられた頭を掻くように混ぜる。
私は髪型なんて気にしない性質なのだ。

あんな一瞬のことで照れくさくなったとか、そんなのじゃない。









.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ