三國無双

□策士
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ひ、と掠れた息ばかりが漏れる。
壁についた手も辛うじて立っている脚もがくがく震えて、今にも崩れ落ちそうだ。

快楽だけに集中しようとしたけど、している場所や時間なんかから来る緊張感ですぐに振り払われる。
じわじわ這い上がってくるような快感はもどかしいくらい。

腰を掴まれて打ち付けられて、突き上げられる振動で声帯が震える。
最初は精一杯抑えていた声も疲れ切ってもう上がらない。


「も、許し、っ……」


お願い、と言ったつもりが、鼻にかかったような呻き声しか出なかった。

ぐぢゅぐぢゅと嫌な音が狭い給湯室に響く。

誰も来ませんように、なんて。
そんな事ばかり考えてしまって、ちっとも気持ちよくない。


発端は、つい1時間ほど前。


同僚の女の子に、呂蒙課長がお茶を淹れてほしいって、と言伝を受けた。
いつも使っている給湯室は水道が壊れて修理中だと誰かから聞いていた私は、普段は誰も近寄らない2階の奥の給湯室へと足を運んだ。

人気がなくてちょっと怖い。

……それにしても呂蒙課長って今日何か言ってたような……あれ?
まぁ、いいか。

なんて考えながら、いつもと同じようにお茶を淹れてオフィスへ戻った。


「え?課長は出張だよ?」
「……さっきこれを頼まれたんですが」
「いや、昼からいないもん」


しかし、行った早々聞いた言葉がこれだ。
予定表を見れば、呂蒙課長は昼から出張、の文字。

おかしい。
私に教えてくれた子は面白くもない嘘をつくような子じゃない筈、なのに。
誰かの間違い、か。

仕方ない、と再度2階へ上がり、片づけることにした。
はぁ、と溜息をつく。

そこで、きいとドアが開いた。


「お疲れ様です」
「……お疲れ様です」


水道を眺めたままの私は声だけで陸遜さんだと判断した。
彼の方が年上の癖に丁寧語なのはもう慣れた。

しかし。


「……あの?」


がちゃんと鍵のかかる音を聞いて、顔を上げる。
すると柔らかく笑った彼の顔が目に入った。

非常にまずい。
ただでさえ狭い部屋、二人も入ってしまえば横に並ぶと接触してしまう。

仕事場では普通にしよう、って言ってたのに。


「陸遜さん」
「何でしょう」
「私、出たいです」
「どうぞ」
「……退いてください」
「嫌です」


めんどくさい、と睨み上げれば、飄々としたままの表情。


「捨てるくらいなら俺が飲みましたよ」
「それは残念でしたね」
「まぁ言い出したのも俺ですけど」


言葉を失った。

そして続けざまに彼は、1階の給湯室が壊れてるのも嘘ですと笑う。
……理解できない。

何でと問うと、こういうのもたまにはいいでしょうなんて答えが返ってきた。
開いた口が塞がらない私に伯言は近付き、そして。


今に、至る。


服は下着を脱がされて、棚に上げられてしまった。
これでは大声で助けを呼ぶことも、なりふり構わず逃げることもできない。
勿論恋人に抱かれることより他人にこの姿を見られることの方が恥ずかしいからに決まってる。
下は捲り上げられ、上に至っては前のボタンを引き千切られてしまう始末。
これじゃあ帰れないと涙の滲む声で訴えると、俺のを貸しますよとキスされて黙るしかなかった。

ああもう、なんてこと。


「ッあ!……く、ぅんっ」


腰を掴んだままぐちぐち動かしていた伯言が背中に覆い被さってきた。
ぐりっと唐突に親指で陰核を押し潰される。
痺れにも似た快楽が腰を砕き、脳髄を駆けた。

悲鳴にも似た声が漏れ、咄嗟に唇を噛んだ。

更にもう片方の手でフロントホックを器用に外される。
ぶるんといった風に胸が晒されて、外気の冷たさの後に彼の手がそれを鷲掴んできた。


「名無しさん、」
「ん、ぁああ、ぃあ、」


胸と反対の手で陰核をくにくにと捏ねられ、中の圧迫感と相俟って電流の様な快感が視界を白く塗り潰す。
伯言の張り詰めたそれの引っ掛かる部分が入り口にごりごりと擦り付けられ、その度に一番奥深くまで押し上げてくる。
耳を塞ぎたくなるくらい音も大きくて、聴覚からも犯されている様だ。
乳首の先端を擦る指にもぞわぞわして堪らなくて、背筋が震えてしまう。

あれ?

……そういえば、待って、この感触。
それにそんな時間も無かったはず。

絶対避妊してない!


「や、嘘、っ、伯言、だめ……!」


やだ、今出されたら、絶対妊娠しちゃう……!
どろどろした伯言の濃い精液。
あんなのいっぱい私の中に出されたら、ッ、私、


「やぁ、や……っひ、ぁ、あぁ、――っ!!」


がちがちに張ったそれが、私の一番奥で射精する想像が頭を抜けた瞬間。
ぱちんと目の奥で火花が散った。

びくん、という全身の痙攣と共に、背中から脳髄までを性感が早急に駆け上がる。
反った背中が痛くて辛いけど、快感が腰で弾けるような絶頂感は堪らなく気持ちいい。

ひくひくと震えて中を締め付けながら、伯言の指を更に強く押し付けるように腰を動かした。
その度に痺れるような感覚が、鼻にかかった声を押し出す。

とっくに力の入らなくなった身体は、壁と彼にだけ支えられていた。
すぐ横にあった棚に腕をついて体重を預ける。


「っ、は……、」


はー、はー、と。
まだ余韻の抜けきらないうちに怠惰感が襲ってきて、息が上がった。

ぐったりしてしまって、何もできない。
喉もからからに渇いて掠れて、なのに息はすごく熱くて。

もう早く伯言もいってくれないかな、なんて考えた。
けど、甘かったようだ。

いきなり、ずるりと引き抜かれたかと思うと引っ繰り返される。
棚から落ちそうになった身体を抱き上げられて、壁に押し付けられた。

全く、可愛い顔をしてる癖に力はばかみたいに強くて男らしい。
陸遜くんってかわいいよね、なんて先輩たちが言っていたのを思い出して、彼女たちに教えてあげたい気も、する。
貴女たちが可愛い後輩だと思っている男は実はものすごく強引で我が儘で性急で。
それから、実は私の彼氏なんですよ、なんて。

片脚を持ち上げられて、さっきと同じ場所に熱くてぬるぬるしたものが擦り付けられる。

正面から抱き潰すように密着して、ちゅうっと耳に吸い付かれた。
それだけで背中が怖いくらいぞくぞくする。

顔を背けて、伯言の胸を押し返した。
これ以上は本当に壊れる。
おかしくなっちゃう。


「……名無しさん、」
「も、やぁ……っ!」
「名無しさん!」


強めに呼ばれたのと、顔を見合わせてちゅ、と唇を吸われたので思わず黙った。
ぼろぼろと溢れる涙にも口付けられて、くらくらする。


「結婚してください」
「……へ?」
「後でもう一回言いますから」
「あ、ちょっ、だめ……ッあ、!!」


直後突き入れられたそれは已然として熱くて硬くて、再度合わさった唇の感覚もわからないくらい私を翻弄したのであった。

……もう、知らない。









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