三國無双

□赤子
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徐庶の部屋。
床には脱ぎ散らかした服が散乱し、そこかしこに書物が積み上げられている。本人曰く、何度片づけてもすぐに散らかるから諦めたそうだ。


「名無しさん、退屈してないかい?」


 部屋の主が問う。


「ううん、大丈夫。……元直は、退屈?」


 振り返った美貌の彼女が首を傾げた。

 退屈な訳がない。いくら眺めていても飽きない程に大好きな妻が、自分の部屋でくつろいでいるのだ。どう触れようか、何を話そうかと悶々としていたところである。

 子を産めども名無しさんは美しかった。勿論未だ歳は若いが、生娘のような新鮮さを保ち続けている。
 武に長けており、戦場でも駆け回っているせいだろうか。

 正直なところ、娶られ子も持った身であの戦ぶりは嬉しい反面、不安にもなる。いっそのこと鍵のついた部屋に閉じ込めて、全ての危険を遮断したかった。しかしそれを許さないのが名無しさんの人柄である。やれやれと首を振るしかないのだ。


 いいやと答えると、柔らかい笑みが返ってきた。

 ……今は、監禁しても無駄であり逆効果だと理解している。
 
 ならせめて、と。


 徐庶は彼女の美しさや艶な声色、特有の芳しい香りに引き寄せられるようにして、名無しさんを後ろから腕の中に閉じ込めた。どうしたの、とくすくす笑い声を上げながらその腕を軽く叩いてみせる妻。すんと鼻を鳴らすと、より一層強くなった匂いが大きな息をつかせた。


「名無しさん、甘い匂いがする……」


 項に口を寄せて唇を這わせると、くすぐったそうに身を捩りながら名無しさんが笑う。香なんて焚いてないわと不思議そうに言った。

 なら、何の匂いだろうか。香ならばやめろと言うつもりだったが、自然なものだとしたらどうしようもない。しかしこれは、男を誘うのに充分すぎる。

 不安に駆られた徐庶は、そのまま強く項を吸い上げた。きゃっと小さな声と共に、名無しさんの肩がはねる。


「……もう」


 何をなさるの、と抗議がましいつんとした表情が肩越しに見えた。

 ……ああ、怒ったような顔も可愛い。もっと見たくなる。

 ぞくぞくと背筋が震え、彼は気づかぬうちに名無しさんを床に倒して組み伏せていた。そして、性急に唇を重ねる。

 彼女の顔の真横に押し付けた手首から、身を任せるように力が抜けた。

 ちゅ、ちゅっ、と何度も口付けながら次第に長く深く変えていく。舌先で歯列をなぞり、その奥へ押し込んだ。
 ざらざらした上顎を擦ってやると、名無しさんが声を漏らした。鼻にかかったようなそれは更に徐庶を煽る。
 対抗するように、彼の舌を絡め取った熱い舌。溶けたような音が聴覚からの刺激となって脳髄を突き上げた。


「……ぷぁ、っ」


 ぢゅる、と零れないように吸い上げてちゅぽんと離す。

 軽く息の上がった名無しさんは言うまでもなく扇情的だった。色付いた頬に潤んだ目は、徐庶の理性を逆に取り戻させることとなる。


「っあ、……ご、ごめん!」


 力を込めて握っていた手首を解放し、零れそうなほど溜まった名無しさんの目元の涙を拭った。
 気まずそうに慌てるも、彼女からは目が離せない。


「……元直、ひどい」
「す、すまない!いや、ええと、その――ッ!?」


 名無しさんの空いた手が徐庶の着物をぐいと引き寄せて、首に腕ごと絡めて抱き締めた。柔らかい感触や甘い匂いに、すっと徐庶の頭が冷える。
 しかし打って変わって心臓は早鐘のように鳴り響き、顔にはかぁ、と熱が集まっていた。ごくりと彼の喉が鳴る。

 そしてそのまま、


「その気にさせておいて離れるなんてずるいわ。
 ……最後まで、して」


 耳元で名無しさんは囁く。
 
 それはひどく熱っぽく、息の抜けて心なしか掠れた声だった。














「あ、ちょっと、……待って」
「ん?」


 口付けながら着物を脱がせ、ずるずるとゆっくり身体に触れていたときだった。急に顔を背けた名無しさんが、困ったような表情で自分の胸に添えられた徐庶の手を掴んだ。


「なんか、変……」
「変?」
「だめ、触っちゃ、あ、」


 構わずふにふにと弄ぶと、彼女の手から力が抜ける。一体何かおかしいのだろうかと考えてみても、心当たりはない。
 痛い訳ではなさそうだと、構わず続けてみることにした。

 つんと尖った先端に触れる。軽く押し込んだあと、中心の小さな窪みを引っ掻くように擦った。
 ひくんと名無しさんが身を捩る。徐庶の腕に触れて、ふるふると首を振った。


「痛い?」
「ちが、う、けど……」


 わかんない、という言葉を聞いて、初めて名無しさんを抱いたときのことを思い出した。あの時も彼女は何度もわからないわからないと言いながら困ったような表情をしていた気がする。しばらくしてからそれが性感なのだと気づいたらしいが、今回は流石にそういう訳ではなさそうだ。

 身を屈めて、そこへ顔を寄せる。ちゅっと胸の真ん中を吸ってから、唇を這わせた。甘い匂いが強くなる。
 淡く色付いたその先端を、ちょんと舌先で突いた。戦場で邪魔になる、と名無しさんは大きいことを嘆いていたが、褥では徐庶を煽るのに充分すぎた。柔らかなそれを揉みしだきながら先端を口に含み、舌でぐりぐりと押し込んだり吸い上げたり、存分に弄ぶ。


「あ、待って、きゃ……!」


 声を噛み殺しながら耐えていた名無しさんが、慌てたように徐庶の髪に触れる。ん?と答えながらそのまま続けていると、じわ、と口の中に何かが広がった。心なしか甘いその液体は僅かに鉄のような匂いがする。

 ……もしかして、と思いながら顔を上げた。


「ばか、だから……もう」


 手を口元に当てて真っ赤になった名無しさんに、徐庶はぐいと軽く顔を押し退けられる。

 
「名無しさん、これって」
「……だめって言ったのに」
「あ、そうか…すまない。……でも、」


 子は乳母に任せっきりで、名無しさん自身抱き上げる以外は触れたことがなかったのだろう。そのお蔭か名無しさんの乳房は綺麗なままだ。変だと言っていたのも、経験がなかったからに違いない。

 すまないと言いながら、徐庶はまたそこへ触れていた。


「っ元直、や、だめ……!」


 口に含んだ方と反対側もくりくりと捏ねくると、ぷし、と溢れ出す。口の中に広がるそれを軽く嚥下すると、名無しさんが見ていられないといった風に泣きそうなまで火照った顔を背けた。
 









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