戦国無双

□太陽と影
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月が綺麗。

以前幸村様にそう言った時、幸村様ってば「ああ、そうだな」って言って笑ってくれたんだよね。
あの笑顔はもーほんとかっこよかったにゃあ〜…。

ううん、幸村様はいつだってかっこいいか。

そういえば昨日、……?


「ん?」


人が動く気配。
そっちを見ると、黒い頭。


「…名無しさんちん、か」


名無しさんちんは幸村様の恋人だ。
…うん、それは事実だし仕方ない。

でもま、あれだよねん。
砦に敵将がいたら諦めるのかって話だし。

諦めるつもりなんてない。
負けたなんて思わない。
戦意喪失、なんてかっこ悪いこともしない。

自分でも何回も何回も悩んで泣いて困って解決したことだ。
解決したつもり、だ。


「はぁ〜…」


こんな時間に何の用だろう。
逢引とか夜這いとか、そんなことをするような子じゃないと思うんだけど。
それに、あたしがいるのだって知ってるはず。

でもきっと、何か用事がある、んだよ。
きっと。

…うー。

折角綺麗なお月様なのに。
なんか滲んじゃうにゃー。






















「ん…?」


人の気配がして目を開ける。
そちらを見やると、名無しさんがいた。


「…どうかされたのですか」
「わ、っ」


幸村が目を覚ましたことが意外だったのか、名無しさんは一歩後ずさった。


「…ごめんなさい、起こしてしまいました」
「いえ、そんなことは」


月明かりに目を細める。
体を起こすと、名無しさんに向き直った。

おいでとばかりに膝を叩く。


「…あの」


問いかけても、優しい笑みが返ってくるだけで。
躊躇いながらも近づいた。

そして、幸村の前に座る。

どうすればいいのかわからない。

このまま倒れこむのか。
いやそれは流石にまずい。

いやそれとも、


「ひゃ、」


幸村の腕が体に触れた。

思わず漏れた間抜けな声に口を塞ぐ。
恥ずかしい。

しかし現状はもっと恥ずかしいことになっていた。

肩を掴まれて向きを変えられ。
幸村に後ろから抱き込まれている。


「…何かあったのですか?」
「っ、」


耳元に感じる声色や吐息に一瞬眉が寄る。
心地いい感覚が背筋を駆けた。

くすぐったいけど、安心する。

出会った頃の彼はこんな風に接触をはかる人ではなかった。
確かに名無しさんに対する心が変わったのもあるだろうけれども。

目が合ったら逸らして、真っ赤な顔で失礼しますと立ち去って。
指先が触れれば最後、暫く固まったまま動かなかった時だってあった。

しかし今は…いや、もういいや。


「…怖い夢を」
「夢?」
「はい」


背中には、自分よりずっと逞しい胸板があって。
肩に掛かる頭の重さも愛しく思う。

まわされた腕に触れた。


「跳び起きたら月が綺麗で、つい、…貴方に、会いたく、…」


次第に小さくなっていく声。

言いながら耳が熱くなった。

なんて恥ずかしい。
普段なら絶対に言わない。

幸村だって、流石にこんな行為は珍しい。
…いや、二人きりではないからか。

彼の傍には常にくのいちや侍女、友人がいる。
喜ばしいことなのだが、その分二人の時間は少ないものであった。

今だってきっとくのいちがどこかに潜んでいるのだろう。

幸村が好きで、大好きで堪らないあの人。
名無しさんより前からそう思っていたはずなのに。
自分はそれを知っていながら、同じように彼に惹かれた。

申し訳ない、と思っている。
しかし自分も彼が好きで、慕っている。
譲る気なんて起きた事がない。

でも後ろめたさも残っている。
彼女の思いはどうなるのか、と。

…でも、今は何にも感じなかった。
むしろもっと、


「幸村様」


――彼に触れたい。

腕をほどき、振り返る。

驚いた顔の少し下。
胸に跳び込む様に首元に抱き着いた。
























「…はぁ」


抱き合う二人。

悔しいけど、すっごく綺麗だと思った。思ってしまった。
……お似合いだにゃあ。

もしあの女のほうが自分だったら。
きっとあんなに美しくは見えないだろう。

あたしだってそこそこイケてるとは思ってるけど、名無しさんちんには敵わない。

…辛い、なぁ。

もういっそ、早く結婚しちゃえばいいのに。
ううん、一刻だって早くしてほしい。

そうして早く、諦めさせて。

早く。
早く。

…はぁ。

割と積極的だけど真面目な二人のことだ。
まだまだ先は長いんだろうな。

……あ、ちょっとやばい雰囲気かもしんない。
きっとあたしがいることだって気付いてるだろうし。

お邪魔虫は退散退散、っと。














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