戦国無双

□悪戯
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派手に噎せた。
麦茶だと思って注いだそれは、素麺のつゆだった。

何故匂いでわからなかったのか、自分を恨む。


「…げほっ」


眉が寄っていくのがわかる。
排水溝にそれを流しながら、後ろを振り返った。

そこには、肩を震わせながら下を向く名無しさんの姿。


「名無しさん」
「…なに?」


顔を上げる。

明らかに頬が引き攣っていた。
そう、思い切り笑いを堪えればこんな表情になるかもしれない。


「――ぷッ、」


そして。

最愛の恋人は堰を切ったかのように笑い出したのであった。






















「…痛い」
「お前が悪いのだろう」


名無しさんが頬を押さえながら潤んだ目で三成を見上げた。

餅のようによく伸びるそれを思い切り横に引っ張ってやった。
ざまあ見ろ。


「三成、怒ってる?」
「別に」


いつものことなので気にしていないとまではいかないが、慣れていた。
流石にこの前この女が家中の時計の時間を後ろにずらすという餓鬼くさい悪戯をしでかしたときは殺意が沸いたが。朝っぱらから無駄に焦ることになった。あれは今でも根に持っている。

ソファーに並んで座りながら名無しさんが三成に向き直る。


「…ねぇ三成」
「何だ」
「とりっくおあとりーと」
「は?」


意味がわからずそちらを向いた。

柔らかく笑う名無しさん。
…黙っていれば可愛いのに。


「お菓子くれないと悪戯するぞ」
「…お前はいつもしてるだろう」
「む」


毎日毎日飽きないな、と付け足す。

名無しさんはしょぼくれたようにそっぽを向いた。
机の上にあったガラス瓶に立ててあった棒付きの飴に手を伸ばすと、慣れた手つきで開封して銜える。

菓子も近くにあるし、悪戯ならさっき受けた。
流行りの言葉を言ってみたかっただけなのかもしれない。


「三成」
「…何だ」


呆れたような声が出た。
もう、顔も見てやらない。

名無しさんが口元を寄せてくる。
そして三成の耳のすぐ横で言った。


「お菓子いらないから、悪戯させて」


熱い息が吹き込まれ、思わず肩が上がる。
驚いてそっちを見れば、名無しさんが笑っていた。


「っ、…馬鹿か」
「三成」


三成の右腕に絡み付くと、舐めていた飴を机の皿に置く。
そして、より唇を寄せた。

ちゅ、と小さく音を立てて耳に唇を押し付ける。
耳朶を挟み、甘く噛むと舐め上げた。

吸い付く唇は熱く、甘ったるい匂いがする。


「ば、ッ、…離せ」


抗議の声は聞かない。

抵抗する力を押さえつける様に、向かい合って膝に跨った。
頬を肩口に擦り付ける。


「好き。三成」
「……ハァ」


文句は溜息になって消えていった。

いつもこうだ。
三成の怒りや呆れをのらりくらりかわして、ごろごろと猫のように甘えてくる。
それだけで馬鹿みたいにどうでもよくなる自分も恨めしいと彼は思うが、どうしようもないこともわかっているのだ。

目の前の頭をぽふぽふと撫でる。
流れる髪がくすぐったい。


「…もっと、ぎゅーってして」


そう囁きながら、名無しさんは唇を彼の首に滑らせた。
軽く吸い付きながら、時折さらりと舐め上げる。

ぞくぞくした、寒気に似て心地いい感覚が三成の背中を這い上がっていく。


「三成、私にも悪戯、していいよ」


はぁ、と熱い息を吐きながら、唇を合わせてきた。

さっきの飴の、甘ったるい風味が鼻につく。
自然と眉が寄ったが、不快じゃない。

軽く開いた唇を抉じ開けるように名無しさんの舌が割り込んできた。
更に甘い。

熱くて甘くて、蕩けそうだ。


「…ッ、」
「ん、…はふ、」


ざらざらした感触が上顎を撫で回す。
他人に触れられるとどうもくすぐったい。

何度も何度も、離れては吸い付く。
甘く噛んだり掻き回したり、忙しない。

三成は腕を彼女の腰と後頭部にまわし、掻き抱くように引き寄せる。
より押し付けられて、名無しさんが呻く様に喘いだ。


「…急にどうした」
「ん、…なんとなく、したくなった」


ねぇ、と続ける。


「…きもちい。もっと、触って?」


溶けたように潤んだ目が、三成を見上げた。














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