ときメモGS2

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彼女が卒業して、2年。

相変わらず教師を続けている。



「……寒っ」



思わず白衣を胸元で寄せ、肩を僅かに竦めた。

雪が降りそうな曇天を見上げながら歩く。


彼女とは特別な関係ではなかった。

思い出は色々あるが、他の生徒と何ら変わりのない平凡なもの。


一度だけ、遊覧船に誘ったことがある。

ピンク色のカーディガンに大人びたスカートを着て、遅刻した彼を待つ姿が目に焼きついている。

家まで送った帰り道、公私混同だと自分の中の警笛が鳴り、2度目は訪れなかった。


一流大学に進学した彼女を見かけたことはない。


生徒と教師など、所詮そんなものだ。

卒業して華々しい生活を送る生徒たちと違って、教師には終わりがない。
異動したって仕事は変わらないし、食べる為には働くしかない。
研究はもう懲り懲りだ。


そんなことを考えながら彼は歩いた。


いつもの定食屋でテレビを見ながら食事をして、欠伸をしたらもう家の前。

また今日も寝て、起きて、明日、高校へ行き、帰って、寝て、また起きて、



「……小波さん?」



うずくまったピンクブラウンの髪に反射的に声を上げた。

顔を上げた女性は彼を見て、指に挟んだ白いものもそのままに笑った。



「先生、お久しぶりですー」



間延びした声に、上手く立ち上がれないその姿。


ああ、出会った頃は16歳だった彼女も、二十歳を迎えたのだ。
そうぼんやりと考えながらも、脚は動いていた。



「悪い子ですね」
「ふふ、そーなんです」



近づく。

鼓動が速くなる。



「飲みすぎたんですね」
「ふふ、そーなんです。ピンポンです」



2年ぶりだというのに、すらすらと言葉が出てくる。


ずっと話したかったのかもしれない。



「若王子先生、わたし、ふられちゃいました。ふふふ」



そう言って美奈子は鼻を鳴らした。


地面に落ちた煙草が煙を上げている。







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