GS2 × GS3長編(完結済)

□情報収集
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着信音。

若王子先生だ!



「はい、小波です。先生?」
「先生です。今、空いてる?」
「空いてますよ。学食でも行きますか?」
「そう。行きたかったんだ」
「向かいます。南の方ですよね?」
「うん。またね」



研究棟から近い方の食堂へと向かう。

暫くして、見覚えのある身長とスーツ姿。
興味深そうに表の看板を読んでいた。



「先生!こんにちは」
「こんにちは。元気?」
「元気です。先生こそ」



軽く会釈して、中へ入る。

メニュー表を見上げて先生は笑っていた。



「いいですねぇ。安い」
「もう……いっぱい貰ってる癖に」
「アハハ!」



高校と大学で教えるのはハードワークだろうけど、いくらくらいもらってるんだろう。
……いいなぁ。わたしには無理だろうな。


頼んでお金を払って(まとめて先生が払おうとしたので全力で止めた)、適当に席につく。
向かい合わせでとりとめのない話に花を咲かせた。

はね学の話。
教頭先生とか、猫とか。
文化祭から、思い出話。


暫くしてふと思い出す。



「あの、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」



先生は窓の外からわたしに視線を移して、ちょっと首を傾げた。



「桜井琉夏くんって、何者でしょう?」
「何者……それは、生徒として?」
「どっちも」



ちょっと考え込む。
うーん、と。

言いづらいのかな。
表現しづらいのかもしれない。

それともあまり知らないのかな。
担任でもないしそれはそうだろうけど。


琉夏くんは相変わらずだ。
電話してくるしメールもくれる。
授業終わりに迎えに来てそのまま出かけようとするし。家にもよく来る。

断れないわたしが悪いんだけど。
……なんだか、ほっとけない感じがするから。
最初の予感当たっちゃった。



「うん……そうだね。僕も聞いた話だけど、学校では……ちょっと素行が良くないって」
「問題児?」
「所謂ね。僕はそこまで思わないけど」



氷室先生情報だよ、と付け加えてくれる。



「よく先生に罠をしかけるそうだよ。ほら、黒板消しとか」
「わぁ……」
「あと、2階から飛び降りて授業から逃げたり」
「えっ!」
「屋上の縁を綱渡りしたり」
「ええ……」
「みんなのお弁当のおかずをかっさらっていく。飴と交換だって」
「……お腹空いてるんですね……」



いたずらっ子で、危ないことして、食いしん坊?

何でそんなことするのって聞いたら多分……そうだな。
楽しいから、とか。
弁当ないんだ、とか。
そのままのこと言ってきそう。



「成績は優秀な方だけどバラつきがあって、数学と暗記は得意みたいだ。でも現国は赤点に近い」
「……へぇ」



読んで考えるのが苦手なのかな。

数学と暗記……頭良いんだ。
そういえば前、教科書を先に読んじゃって覚えちゃうから授業は退屈、みたいなこと言ってた。
あれ本当だったんだ!



「僕が見てる彼は……そうだな……」
「はい」
「ずっと、どこか遠いところを見てる。寂しそうで。……何か辛い記憶があるんだと思う」



優しく目を細める先生。

……それは、ちょっとわかる。
すごく不安定な感じ。
だから色々、ダメ?って聞かれたら弱い。甘やかしたくなる弱さが見えて。


遠いところを見てる、か。



「昔の先生みたい」
「え?」
「先生もそうでしたよ。わたし、いつかどこかに行っちゃうんだって思ってました」
「……僕が?」
「はい。いてくださってよかった。今もこうやって会えるの、嬉しいです」
「……そう」



驚いた顔をして、そのままわたしを見つめる。



「そうだね。そう思ってた」
「遠くに?」
「うん。すぐ別のところに行くんだって思ってたんだ。……でも」



頬杖をついて、ちょっと悪戯っぽく笑った。



「変わったよ。僕も」
「……誰かの影響ですか?」
「どうでしょう?」
「誰ですか?知りたい」
「それは秘密。当てたら教えてあげる」
「えー。片っ端から言っちゃいますよ」



……へえ。
先生の年齢でも誰かに変えられること、あるんだ。

誰だろう。気になる……多分教えてくれないだろうけど。



「……琉夏くんもきっと変わるよ。今まさに変身中だ」
「いつから教えてるんですか?」
「彼には問題を出してるだけで僕は何も。……半年も経ってないかな」
「数学得意って意外な感じ……」
「わかるんだって言ってた。途中の式もいらない、問題を見たら、勝手に道が拓けるって」
「……天才型?」
「まさに」



……羨ましい。
わたしは毎回頭を捻って脳内会議、絞り出して参照して解にたどり着く感じなのに。

天才っているんだよね。
わたしには何の才能もないけど。



「……彼が本当に行きたい道に繋がるならいくらでも手伝うつもりだよ」



そう言って複雑そうに笑う。

……先生、そうか。
昔、無理矢理研究させられてた側だから。

あれ、この話いつ聞いたんだっけ。
なんでもない会話でするっと聞いた?
いつだ、帰り道?



「やっぱり、素敵な先生ですね。若王子先生は」
「……そう?」
「うん。そう思います。担任で良かった」



琉夏くんも先生のこと変な人って言ってたけど、貶す意味じゃなさそうだった。
寧ろ、面白いってことだってわかる。

……学校で、先生の間では端に追いやられたりしてたけど。体育祭の準備外されたり。


先生に会えて良かったのは多分、みんな同じだと思う。



「君は就活中?卒論?」
「就活……うっ、頭が」
「あれ。迷走中って感じかな」
「……ピンポンです」
「別にひとつに絞らなくても。ほら、会社っていっぱいあるから」
「そうですねぇ……」



けらけらと笑う先生は天才だから。
凡人のわたしは眉を下げた。


机に置いた携帯が震える。



「わっ……」
「どうぞ。気にしないで」



スイマセン、と頭を下げながら電話に出る。


噂が聞こえてたみたいに琉夏くんだし……もう。



「美奈子。俺」
「う、うん。琉夏くん、どうしたの?」
「……誰かいる?まぁいいや。遊ぼう」
「えっと……」
「今日はダメ?」
「今日はちょっと」
「夜も?」
「夜はダメだってば」
「じゃあ、日曜」
「……うん」
「また電話する。そんじゃね」



爆速テンポで弾丸だ。
コンビニみたいに扱われてる。

ついオッケーしちゃったし。
日曜空いてた、よね?


スケジュール確認で携帯をぴぴぴとやってたら、先生が首を傾げて顔を覗き込んできた。



「琉夏くんって言った気がするけど。僕の知ってる琉夏くん?」
「……あは、あはは……ハァ〜……」
「ウソ。本当に?」
「はい」
「……恋人?」
「違います!」



つい大きな声が出た。
食堂がうるさくてよかった……。

あー。
なんか気まずい。



「そう。ビックリだ」
「わたしもびっくりなんです……」



そうだよね。
出会ったの、ついこの前だもん。

先生からしたらいつの間に、だし。何で?だろうな。
わたしも聞きたい。

捨て犬みたいな顔されるだけで全部断れないチョロい自分を、コラッて叱ってほしい……。


……ふぅ、と軽い息が聞こえた。



「……ちょっとのんびりしすぎたかな」



ちょっと挑戦的な目で外を見る。

……?



「もう時間ですか?」
「ああいや、時間じゃなくて」



気にしないで、と言われた。

気にするよぉ!



「出ようか。送っていくよ」
「はい」








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