GS2 × GS3長編(完結済)

□じゃないこともない
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やっちゃった。
間違えた、間違えた、間違えた!
どうしよう。
終了ボタンと解錠ボタン隣だから!
絶対ダメだって。
頭ふわふわしてるし!どうしよう!

……なんて1人でドタバタしていたらインターホンが鳴った。
玄関ドアの方だ。

ああ……来ちゃった……。



「あれ、ここは開けてくれないの」
「……ホントに間違えたの。ごめん、今日はだめ」
「ワザとだと思ってた」



ですよねゴメンナサイ違うんです……!
嫌よ嫌よもなんとやらみたいなことしちゃったよね馬鹿でごめんなさい!!


言い訳と帰らせる口実を働かない頭で考えていると、



「今日はってなんだよ。おまえは」
「さ、佐伯くん!?」
「あ?誰?」



ハァ……と聞き慣れた溜息が聞こえた。

何で!



「開けろ」
「……ヤダ」



怖い……佐伯くんと琉夏くんがそこにいる。

何でかはわからないけど、一緒にいちゃいけない2人だって気がした。


き、毅然とした態度で帰さないと!
思いだそう。一緒に帰ろうって佐伯くんを誘った時断られた記憶を!



「開けろって」
「やだってば」
「美奈子」
「開けません!」
「……いいから。開けて?」
「ひっ……ごめんなさいごめんなさい開けます」



怒ってる時の佐伯くんの声がした。
わたしに優男モードで話す時は相当だって経験と記憶が言ってる。

反射的に鍵を開けた。



「遅いんだよ」
「コエ〜……」



佐伯くんに続いて琉夏くんが入ってくる。



「大学にいたヤツだ」
「大学にいた高校生だ」
「……ひぃ」



……何でこうなったの?



「オマエの彼氏?」
「……じゃないんだけど、今日一緒にご飯食べてて」



詰められてる。



「そっちこそ。おまえの彼氏?」
「いやぁ、あのぉ……違うんですけど」



怖いよ〜……!

目の前がくるくるしてるのもあって、つい床にしゃがみ込んでしまう。



「うん。彼氏じゃない。でも俺は好きなんだ。そっちは?好き?」
「エッ?お、俺?何で」
「……答えないの?」
「……」



琉夏くんが普段より鋭い目で佐伯くんを見ていた。
……知らない目だ。


酔いが冷めるのがわかる。



「アンタさ、飯行って家まで送って賢く解散したんだろ?」
「……」
「でもそのあとよくわかんない男が美奈子の家に入ったからつい後つけたんだ。好きだから気になって。違う?」
「……」
「ただの友達なんだったら帰れよ」



!!


……その先は聞いちゃいけない気がした。
聞いたら、またわたしはぐちゃぐちゃになるって思った。

咄嗟に耳を塞ぐ。



「ね、やだ。言わないで……」
「ああ。好きだよ?高校の時から」
「……!」



……聞いちゃった。

世界が揺れた気がする。



「何つった?……高校?」



ピリッとした琉夏くんの声が笑った。
嘲笑するように。



「何年前だよ……何でその時言わなかったの?卒業式何してた?チキン?言って振られた?」
「……言ってない」
「何それ……高校、か」



喉が詰まったように黙る。


……辛そうな顔だ。

見たくなかった。



「……何で」



目を閉じて、大きく息を吸って吐いた。

座ったわたしの前に屈んで、頭を撫でてくる。



「ごめん、美奈子。ちょっと腹たった……怖かった?」
「ううん……あの」
「今日は帰る。押しかけてゴメン」



優しい手だ。

……連絡もなしに来たの、初めてだったな。



「何かあったの……?」
「え?」
「……突然来たこと、今までなかったから」



びっくりしたみたいにわたしを見る。
目が動いて揺れて、目線を外した。

図星だ。
何があったんだろう。



「いいんだ、もう治った」
「怪我したの?」
「してない。顔見れてよかった。体調気をつけて?」
「……うん、あのね?」
「いい。今度は電話する。……おやすみ」
「……おやすみなさい」



そのまま顔を耳元に寄せて、好き、って言った。
……いつもなら、もう!なんて言えたけど今は心が遠い。
他人事みたいにただ鼓膜が揺れた感じ。


立ち上がった琉夏くんは笑って、わたしに手を振って出て行く。



「……」
「……」



この状態で残さないでほしかったかな。
気まずい……


……ああ。

わたしが悪いんだろうな。
嫌な人間だ。

はいはい悪うございましたよ、なんて開き直る訳じゃなくて。
ほとんど自己嫌悪。

何で。



「……あのさ」
「ごめんなさい」
「え?」
「……わたしがはっきりしないから」
「違う、俺が……」
「違わないよ!」
「……情けないな、俺」



座ったわたしの前にしゃがみこんで、顔を覗き込んでくる。



「今度、素面で言うから。ちょっと保留」
「え?」
「今なに言っても、酒の勢いっぽいだろ。言わされたの腹立つし……」



また溜息をついて、佐伯くんが自分の髪をぐしゃっと掻く。



「ゴメン。俺が甘えてたんだ。おまえのそういうとこに」
「……どういうところ?」
「ボケっとしてさ。察しても黙っててくれるだろ?たぶんおまえはとっくに気づいてたんだ」



何も言えなかった。

気づいてた?わたしが?



「そういうとこにずっと救われてた。……ありがとう」
「……」
「またな」



私の頭をわしゃわしゃと撫でくり回して、玄関へと歩いていく。

……また、置いていかれる。



「おやすみなさい」
「おやすみ」



優しさが痛い。

こんな痛いのに、なんで動かないんだろう。

わたしの心はずっと、魚のいない水槽みたいに静かだ。






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