GS2 × GS3長編(完結済)

□エンディング
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……。


そうして。


…………。


わたしは大学を卒業して。


……………………。





「いらっしゃいませ。……ゲッ」
「いらっしゃいませ!……あ」



あーふぅ……と怠そうな溜息をわたしにだけ聞こえる大きさでこっそりつく瑛くん。
お客さんに向かってゲッて……。もう。


オッス、と彼が言った。



「琉夏くん、いらっしゃいませ」
「美奈子。まいど。儲かってる?」
「……ぼちぼちです。はい、こちらの席どうぞ」



案内して、お水とおしぼりを並べる。

席についてすぐ琉夏くんは言った。



「俺コーヒーとホットケーキ」
「琉夏くんセットですね」
「琉夏くんセット……」
「いつも変わらないんだもん。ほら、通してないのにもう焼いてる……」
「……今度別の頼んで困らせてやろ」



メニューには無かったけど、熱烈なリクエストで追加したホットケーキ。
これがコーヒーとセットで超お手頃価格。ほとんど琉夏くん用だ。
毎回絶対に頼むから、琉夏くんの顔が見えた途端に厨房がスタンバイしている。



「美奈子、ちょっと。来て」
「はーい」



店主が呼んでいる。

カウンターの裏に回ると、瑛くんが小さい声でこそこそ言ってきた。



「今日もラストまでいんのかって聞いてきて」
「嫌そうな顔しないの。いるんじゃないかな?」
「毎日毎日……ハァ」



焼けたホットケーキをお皿に乗せて、盛り付ける。



「……窓際空いたら移動させて?アイツ客寄せになるから」
「え?そうなの?……客寄せって。言い方!」
「ヤだけどそうなの。はい、持ってって」
「もう。了解です、マスター?」



いい匂い。
甘いホットケーキとバターと、コーヒーの深い匂いだ。

……好きだなぁ。



「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」



テーブルに置いて伝票を挿す。

琉夏くんは頬杖をついたままわたしを見た。



「追加で美奈子頼んでいい?」
「……メニューに載ってません」
「ルカセットにさ、入れといてよ」
「入れません」
「早く店閉まらない?」
「閉まらない!もう、大学生は勉強しなさい」
「それいい。もっと言って?ハートマークつけて」
「…………勉強しなさいっ♡」
「する。スゲェする。その前に1回だけーー」



ことん、と。

それはもうこれ以上ないくらい丁寧な所作で、シロップの瓶が机に置かれた。
わたしと琉夏くんの間を割って腕が伸びている。

振り返ると、仏頂面の瑛くん。



「忘れ物」
「あっ、ごめんなさい」



そのまま琉夏くんをじっと見た。



「……」
「……」



琉夏くんも見上げたまま動かない。

……け、喧嘩でも始まる?
なんてちょっと身構えた時。



「店内でイチャつくのはご遠慮ください」
「ゴメン。今日もコーヒー美味いね?」
「……」



飄々と返されて瑛くんがぐっと詰まった。

ぷい、と顔を背けてキッチンへと戻っていく。



「ハァ……」



ぶつぶつ何か言いながら額に手を当てていた。

その背中を見る琉夏くんがこそっとわたしに言う。



「アイツさ、褒めたら黙るんだ。素直で良い奴……今日は俺の勝ち」



勝負してたんだ……。



「あ、電話……またね、琉夏くん」
「うん。お仕事頑張って」



店の奥にある電話へと急ぐ。



「はい、喫茶珊瑚礁です」







……。

…………。




わたしは卒業後、辛うじて貰ったいくつかの内定を蹴って珊瑚礁に就職した。

想像してた通り忙しいけど楽しくて、充実した日々を送っている。

屈折した店長と、毎日来て閉店までいる常連さんの相手もすっかり慣れた。

今はお店のホームページに載せる写真を綺麗に撮る方法を模索中。
もっと良いカメラと照明が欲しいなぁって店長に交渉してる。結果は……あと一押しかな。



瑛くんは長年の努力が実って、喫茶珊瑚礁を再オープン。

店長とかオーナーよりマスター、バリスタさんって呼ばれる方が嬉しそうだ。

今は珊瑚礁ブレンドの更なる改良や、新メニュー開発に勤しんでいる。
近々豆の販売もしたいんだって。
テイクアウトやデリバリーももっと豊富にできたらいいなって話してた。
あと、店のリフォーム。良いところは残して機能的に……資金は……とかなんとか考えてるみたい。

定休日にもキッチンにこもってたり人気のカフェに偵察に行ったりしてるし、
寝言で仕入れする物の名前を言ってたりもするから、忙しい方が楽しいんだろうな。



琉夏くんは卒業後、宣言通り予備校に通って、希望通り一流大学に進学した。

授業にバイトに、充実してるみたい。

West Beachを出て、同じくらい壊れかけた家を見つけて修理して住んでる。今度はちゃんとお金を払って。
お風呂も洗濯機もあるんだ、って嬉しそうに言ってた。
今はテレビを探してるんだって。
「早くオマエが住める家にするから」って……いつになることやら。




大好きな人と手を取り合って、支えて、歩いていく。

それが、灯台の伝説のふたりが教えてくれて、サクラソウに導かれたわたしたちの生き方、かな?







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