GS3長編 設楽聖司×お嬢様(完結済)

□花見
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「出るぞ」
「はい。ただいま」



ちゃり、と車の鍵を鳴らしながら美奈子が出てきた。

いつもの踝まである重たそうな長いワンピースにベルベットのヒールブーツ。
あまり森林公園を散歩する服装ではない気がする。草が生えていれば裾を汚すし、靴の素材だって土が付きやすい。
それしか持っていないのかとも一瞬思ったが、庭で土をいじっている時はもっと身軽な格好をしていた筈だと思い出して違和感を覚える。



「なんだその服」
「えっ?何か不適切でしょうか」
「別にいいけど。汚れたって後で文句言うなよ」
「……わたくしは運転だけでは?」
「は?」
「えっ?」



お互い沈黙する。

そして、ぽかんとした美奈子の顔で察した。



「……着いて行っても良い……と?」
「もういい。わかった」
「ええと、あの、すみません」



たしかに自分も悪かったかもしれない。
買い物以外に今まで連れていったことがなかったのだ。



「おまえにははっきり言わないと伝わらないんだな」
「……?」



そんなに言葉が足りなかっただろうか。
いやわかるだろ。

等と脳内で言い訳をしながら、設楽は美奈子を見下ろして真っ直ぐ言った。



「桜を見に行くぞ」
「え、あっ」
「俺とおまえで。わかったか?……ん?」
「……」



見る見るうちに彼女の頬が色づいていくのがわかってぎょっとする。



「バカ、赤くなるな。なんだよ」
「……はっ!す、すみません、申し訳ございません、すぐに着替えてまいりますのでっ」



焦ったようにたたた、と早足で歩いていって、思い出したように直ぐたたた、と引き返してきた。

両手で差し出される車の鍵。



「お先に車でお待ちくださいまし!」



設楽が黙って受け取ると、たたた、と早足で去っていく。



「……バタバタと……」



別に急がなくても桜は逃げないのに。



「あの、これでいかがでしょう」
「気合い入ってないか?」
「変でしょうか」
「……まぁ、似合ってる」









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