ときメモGS2

□新しいフォルダー(2)
2ページ/4ページ








学園時代からはかなり伸ばした髪。
少し短くなったスカート。
化粧を覚えたのか、唇の彩度が高い。

何も変わらない笑顔と声のトーンで、先生、と呼ぶ。



「だから気づいたんですよ」
「はいはい?」
「高校時代恋愛してたら、こんなことにならなかったって」
「……まぁ、何事も経験ですからね」



少し離れたバーで、話し込んでいた。

話題は学園のことから、同級生、若王子の近況に始まり、美奈子のことへ移り変わる。


彼女は一流大学に進学してすぐ付き合った男性に最近振られたらしい。
それがなんともクズ男で、しかし恋愛を知らない彼女は肯定するしかなかった。
いつの間にか依存し、別れを告げられた際泣いて縋ったそうだ。

しかし今、からっとした表情でそれを語る。



「でしょ?それで思い出したんです」
「はい」



若王子にはよくわからない名前のカクテルに口を付けてから、美奈子は首を傾げて彼を見上げた。



「先生とわたしは、恋愛、してましたか?」
「……」



すぐには答えられなかった。



「あの頃のわたしは、知らなかったんです」



自分の中でも言い訳していた記憶が蘇る。

蓋をして忘れようと必死になっていたものを、抉り出してくる。



「わたしが単純に先生とお出かけしたと思ってたあれは、客観的に見ればデートだったって」



課外授業ではない、あの日。

つい、電話をかけたあの夜。


家まで送ったあの頃の自分は、はっきり覚えていた。



「わたしが尊敬だと思ってたあれも、わたしが親切だと思ってたあれも、全部」
「ストップ、ストップです」



つい、遮る。



「……」



やっぱり、という笑みを浮かべて美奈子は正面を向いた。


ライターで煙草に火を付ける。

紫煙が立ち上り、一息吸って吐く。



「ハァ……」
「ふふ」
「悪い子になりましたね」



苦い顔をして頭を掻く。

美奈子は若王子よりずっと寂しそうに、呟いた。



「元々だよ」
「はい?」
「知らなかっただけ。わたしはずっとこうだった」



自分に囁くようにそう言う。



「お手洗い行ってきますね」
「はいはい」



知らない間に色々あったのだ。

漠然とまとめて言い訳をするように完結する。


また溜息をひとつついた。



「すみません、お勘定を……」



店主は若王子を見て、柔らかく笑う。

見透かされているようで、背筋が冷えた。








.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ