ときメモGS2

□都合のいい男たち
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男と女は消耗品だ。

使い捨てて、使い捨てられて、それくらいが丁度いい。



「明日の課題した?」
「朝一やる……」
「一限のあとでいいから教えてほしいなぁ」
「自分でやれ」



セーラーブラウスを羽織り、フレアスカートを履きながら佐伯くんを振り返って唇を尖らせる。

彼はう、という表情で目線を逸らした。

背中を向けているのをいいことに見ていたということは置いておいて、この調子ならきっと一限の前にでもノートの写真が送られてくるだろう。



「もう帰んの」
「うん」



時間は夜の10時半。

流石に外はすっかり暗くなっている。

開けた窓から涼しい風が入ってきて、佐伯くんの髪を揺らしていた。

夏場でも、海辺にあるこの家は割と暑さを感じない。


佐伯くんものそのそと服を着始めた。



「送る」
「いいよ。眠いんでしょ?」
「嫌味っぽ……あん時は悪かったって」
「ふふ」



タイツも履き終えて、鞄を持ち上げる。

もう一度振り返ると、ベッドに座った彼が何か言いたげな表情でわたしを見上げていた。ちょっと可愛い。



「なーに?」



佐伯くんを見下ろして笑う。

ベッドに膝で乗り上げて、彼の腰を挟むように向かい合わせに座った。

太腿の上に馬乗りになり、すっかり乱れた髪を梳くように撫でる。

額にちゅっと口付けた。



「やっぱさ、危ないし。送らせろよ」



彼の腕がわたしの腰にまわる。

抱き込むように引き寄せられて、そのままベッドに倒れこんだ。


ごつごつした指で髪を耳にかけられる。

髪から頬に親指が移動して、顎の縁をなぞった。



「えっち」
「……うるさい」



わたしを見上げる佐伯くんが、また何か言おうとしたのを察して、唇に吸い付く。

さっきまでのよりずっとあっさりした、数秒だけの軽いキス。



「帰るね。お邪魔しました」



口を離したのと同時に彼の腕を無理矢理解いて、身体を起こした。

ドア前まで歩いて振り返る。


ベッド脇に座り、また深く溜息をついて髪を掻く佐伯くんに手を振った。

彼ははいはい、というような呆れた顔で片手を上げる。


マスターに見つからないようにそーっと廊下を歩き、玄関から出て、貰った合鍵で施錠した。


鍵をくるくると手の中で弄びながら、夜の道を歩く。

この時間の道はまだ人通りも明かりもあって、責められているような気持ちになる。



「……ふふ」



それでいい。


愛だの恋だの好きだの付き合うだの、そんなの全部いらない。

手に入らなければ失わない。

使いたいときだけ使えればそれで充分。

それだけでわたしはこんなにも楽しいのだから。



「もしもし」
『はぁい』



呼び出し音が消えて、のんびりした声が聞こえた。



『美奈子ちゃん。なーに?』
「うん、今日泊めてもらえないかな」



ローファーの音が心地よく響いている。



『毎回急やなぁ……』
「だめ?」
『……キミにそんなん言われたら断れへん〜』



クリスくんは一人暮らしだから、泊まるのに丁度いい。

わたしがしてることを知ってるのか知らないのかはわからないけど、そんなことどうでもよかった。



『んー、今からお風呂入るし勝手に入っといてー』
「ありがとう」



ぷつ、と通話が切れる。


今日の宿は確保した。

コンビニで手土産でも買っていこう。


……と。



「もしもし」
『美奈子?』
「――、」



流れで、かかってきた電話に出てしまった。

クリスくんとの電話を切った直後すぎて、誰からの着信か確認するのを怠った。



『テメェ今どこに――』



震える指で切断ボタンを押す。

息が詰まり、足が止まる。



「……は」



深呼吸。

大丈夫。


家にさえ帰らなければ、大丈夫だ。


にしても、声ひとつでわたしの心臓を縮こませるなんて。

我が親ながら笑ってしまう。


彼にお酒を買うお金なんてない。

あれば服を買っている。



「……はぁぁ」



気付かないまま蹲っていた。


早く行こう。


わたしに優しい人の家へ。









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