GS2 × GS3長編(完結済)

□恒例
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ケーキを食べ終わって、残りのアイスコーヒーをちびちびと啜る。

手作りらしいレアチーズケーキはおいしかった。

喫茶店バイトで今も舌が肥えたままなのか、コーヒーは普通だなと思った。
普通の紙パックの味。



「就活してる?」
「してない」
「ですよね。開店準備は順調?」
「ぼちぼち……ハァ」



重たい溜息を吐く佐伯くん。
やっぱり経営って厳しいのかな。文学部のわたしには想像できない。



「やっぱ難しいよ。もうちょっと周りとピーヒャラやっとくべきだった」
「というと?」
「……結局誰かと分担するんだ。どこの誰だか知らない奴と」
「一人じゃ厳しいんだね?」
「最初はいいと思うけどさ。珊瑚礁だって2人でやっとだったんだ。フロア足りなくておまえ雇ったわけだし」



……なるほど。
1人で黙々と必死に勉強してた佐伯くんのことだから、誰にも言ってないし言おうにも友達がいないんだ。

意識の高い友人が人脈がどうのこうの言っていたのを思い出す。


横目で周りを見ていた佐伯くんがわたしを見た。



「……なぁ」
「うん?」
「就活どうなんだよ。おまえこそ」
「あ、あはは……困ってるけど」
「……そっか」



この時期になると決まってみんなそう言う。
もう聞き飽きた単語。

……わたしはまだ、就活サイトを見て、エントリーシート……通称ESの部分でずっと止まってる。
どこを受ければいいのかも、何を書けばいいのかも微妙で。
何社か書いてみたけど書類落ちだった。
とりあえず経験でしょ、と適当に教科書みたいな文言を書いてみただけだからそりゃあそうよね。



「美味かった。コーヒー以外」
「わたしも思った」
「だよな。……回転率高そうだし、仕方ないのか」
「一杯ずつ挽いてたら行列だしきっと赤字だね。駅近だし」
「ハァ……現実って感じ」



やっぱり同じ感想だった。

駅近くで、話題になるような写真映えするメニューがあって。
ここはそこまで味に拘っている店じゃなかったみたいだ。
豊富な席数と作り置きの迅速な客回転でぱっぱと稼ぐ。そんな感じ。


よし、とコーヒーカップを置いた佐伯くんが流れるように伝票を取り上げた。
そのまま黙って席を立とうとするので慌ててわたしも席を立つ。



「払うよ」
「いい。俺が付き合わせたんだ」
「でも!あっ」



ふぅ、と鼻で息をついた佐伯くんが目で、いい。と語った。
すたすたレジに向かう。

……引き下がろう。



「ごちそうさま……」
「ああ」
「……佐伯くん、優しくなった」
「ハァ?誰が」
「佐伯くんが!」
「どこが」
「伝票かっさらってくとこが!」
「別に何でも金出してるわけじゃないだろ」
「……うん、まぁ」



表に出て、歩きながら話す。

少なくとも高校生の頃は違った。
はい俺の分ときっちり端数揃えて突き出してくるような。

などともごもごしていると、佐伯くんが急に萎れた。



「俺そんなに優しくなかったか」
「うん。彼女でもできた?」
「できてない」
「ウソ!」
「いや……ホント。興味なくて」
「モテるのに」
「……薄っぺらいんだ。ピーチクパーチクうるさいし」



想像できる。

でも多分もう高校の頃みたいに誰彼構わずいい顔してない。
日替わり女子とお昼ご飯、なんてのもしなくなったらしい。

そりゃそうか。数が違いすぎる。



「そっか」
「なんだよ。大学生は彼女作らなきゃいけないのかよ」
「そんなこと言ってないよ」
「おまえこそできたのかよ」
「……」
「え、嘘マジ?」
「できてない。てへ」
「……。びっくりさせんな!」
「あ痛っ!」



久々のチョップはめちゃくちゃ痛かった。


駅について、解散。
……さて。帰ろう。








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