GS2 × GS3長編(完結済)

□ばーか
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「美奈子」
「!!」



つい固まってしまった。

振り返る。



「来ちゃった」
「制服……学校帰り?」
「うん。今日はちゃんと行った」
「……えらい」



携帯を確認する。
着信もメールも来てない。

あれ?



「何でいるってわかったの?」
「え?水曜はここで6限なんでしょ。自分で言ってたよ?」
「覚えてたんだ……場所まで?」
「うん。で、バイトもない。正解?」
「正解……」



自分のことはすぐ忘れちゃった、って言う癖に。



「そんな身構えなくても。今日は何もしない」
「……ほんとに?」
「ホント。俺ちょっと用あるから。終わったらデートしよう」



待ってて、と言われて立ち尽くす。

……心臓がまたばくばくし始めた。

嫌じゃないのは何でかな。
逃げたいし恥ずかしいけど、嫌だとは思わなかった。



「美奈子」
「佐伯くん!佐伯くん……」
「な、なんだよ。変な顔すんな。……なぁ、今のってさ」



見慣れきった顔。
佐伯くんを見ると安心する……。
つい助けてって抱きつきたくなっちゃった。しないけど。


琉夏くんの背中を目で追う佐伯くん。

はーん、と鼻で笑う。



「モテモテだな」
「そ、そんなんじゃないよ。高校生だよ?」
「……ふーん?」
「うっ……さ、佐伯くんはどうしたの?授業?」
「いや。俺は学割の券取りに、ちょっと事務室」



同じ方向だったらしい。
行きたくないのか立ち止まる。



「あ、そうだ。若王子先生がさ」
「うん?」
「大学生のうちに旅行行っとけって話になって。氷上くんっていたろ?乗っちゃってさ」
「計画してるの?」
「らしいよ。4人になるのかな……あと一流の知り合いいるか?」
「うーん……あ、赤城くんとか?」
「そうか、生徒会繋がりか……おまえ行く?そうなったら」
「お、女ひとりって邪魔じゃないかな。男旅行の方が」
「おまえなら大丈夫だろ」
「どういう意味でしょう?もう」



旅行!
なんて楽しそうな響き。

そういえばそんなの行ってないな。
友達はちょくちょく色んなところに行ってて羨ましいんだけど、ついてけるほど仲良くもないし。



「人数増えすぎてもな。それなら俺おまえと2人の方が楽だ」
「……2人で旅行?」
「あー、と、変な意味じゃなくてさ。ほら、京都だって一緒に回ったろ?」
「うん。ガラス時計も清水の舞台もよく覚えてるよ。これも」



修学旅行を思い出して、携帯を突き出した。

揺れる八つ橋のストラップ。
所々塗装が剥がれて紐の色も変わってしまった、思い出。



「……おまえ、まだそれ」
「いいでしょ」
「ボロボロだ」
「まぁ、そうかも」
「新しいの買おうぜ?まぁ、あっちの話も聞いてから決めればいいし。またな」
「うん。会ったら聞いとくよ」



ひらっと手を振って佐伯くんは事務室の方向へ歩いて行った。

すれ違うように琉夏くんが来る。



「……あ、琉夏くん」
「誰?あれ」
「高校の時の友達」
「へー」



わたしの手を掴んで歩き出す。

……ちょっと速い。



「妬いてる?」
「別に」
「怒ってる」
「怒ってないよ?オマエがモテモテなのはわかってるし、友達ならいいんだ」
「歩くの速いよ」
「あ、ゴメン……」
「……ふふ、カワイイとこあるんだね」
「オマエに言われたくない……」



目を逸らされてしまった。



「用事って何だったの?」
「色々貰った。受けるから」
「……ここ、目指すんだ?」
「うん。来年。予備校行って勉強だ」



貰ったらしい紙の束をくるっと丸めてポケットに突っ込む琉夏くん。

迷いなく言ったのを見て微笑ましくなる。
後輩になるんだ。

わかんないって言ってたけど目指すんだ。
……すごい決断。



「そっか。応援してる。わたし文系だから何もできないけど……」
「いいんだ。オマエは……そうだな。こう、両手を胸の前で握り締めて」
「……?」
「ちょっと前屈んで、俺見上げて」
「……??」
「そんで首傾げながら“ガンバレ♡”って言って?」
「……」



……やるの?

わくわくしながらわたしを見る彼の目に急かされる。


……やるのか。よし。



「……がんばれ♡」
「ああうんもう……頑張る。スゲェ頑張る。いい……ありがとう」
「何これすごく恥ずかしい何これ」
「ギュってしたい」
「ダメ」



やる気が出たみたいなら、よかったです……。



「オマエと一緒にここ通えないのは残念」



建物を見上げて、ぽつりと言った。

夕暮れの風が冷たい。



「……もっと早く生まれたかった。そうしたら……全部」






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