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□秋蛍の記憶/Lside
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子供の頃
夏休みの終わりに
両親に連れられて行った
田舎の蛍祭り


その頃は別に
蛍の幻想的な美しさとか
感動とかそういう感覚はなく


虫が光る
なんでだろうと
捕まえて家に持ち帰ってみたら
その場所で見たときのようには
光らず、また何でだろう


そんな位にしか思ってなかった


ただ、都会に住んでいた俺にとっては
初めて見る景色で暑くて、うっとおしいだけだと
そう思っていたけど
少しだけ、記憶に残っていたんだ


大人になって
この場所を初めて見つけたとき
あの頃には感じることができなかった
何かを感じた


切なさや、儚さだったり
非力さを感じさせられる反面、
何者も拒まない悠然とした空間


そんな感覚を覚えた
それから、特に好き
というわけではなかったけど


蛍火にあふれるこの場所が
忘れられなくなっていた


何かあるたび
一人になりたいとき
ここは俺の聖域になった


この場所に
誰かを連れてきたい
そう思った事はなかったんだ・・・


一人でいるための場所
そう決めていたから



「ねぇ、ミンソク」

「ん?」

「蛍って、何で光るか知ってる?」



背中からミンソクを包みながら
頭に顔を埋めて、話しかける



「ううん、考えたことないかな」



ふわふわと風に揺られてる髪が
擽ったくも、心地いい



「蛍はね、それぞれが、自分達の運命の相手を探すために光るんだって」

「・・そうなんだ?」



肩口に頭をもたれさせながら
目線を俺に向けてくれる
光の反射が写りこんだ瞳がとても綺麗
吸い込まれるようなそんな感覚にうっとりする



「うん。不思議じゃない?」

「なんで?」

「言葉も交わさないし、俺には全部同じ光に見えるのに、ちゃんと自分の相手を見つけるんだよ?なんか、それってすごくない?」

「そうなの?」

「うん、それにね、言い伝えもあるんだ」

「言い伝え?」



キラキラの瞳で覗き込むその顔が
可愛くて、鼻先を擦るようにして甘えてみる



「蛍にはね、愛しい人を思って自分の魂を蛍にのせて、遠く離れていても、想い人を呼び寄せることができるらしいんだ」

「・・・・‥」

「俺にとっては蛍は想いを繋ぐ不思議な虫なんだ」

「そか・‥」

「俺はね、ミンソクから離れるなんて耐えられないからそんな言い伝えを願掛けで使うつもりはないんだけどね」



そう言うと、すこしミンソクの瞳が揺れる



「でも、もし、ミンソクに何かあって、どうしても会えないときは蛍に乗って会いにいくからさ、そしたらいつでも会えるでしょ?」



きゅって口を紡ぐのは
照れたり、我慢してるときの癖だね



「ね?」

「だからクサイって」

「あはは」

「・・・」



ちょっと呆れた顔でこっちを見て
また少し寂しそうな顔をする



「俺にとってのとっておきの場所、初めて連れてきたのはミンソクなんだけどさ」

「・・・」

「気に入ってくれた?」


小さく頷いてまた瞳を揺らす
言いたいことを素直に言わないミンソク
全て引き出してあげないと、言わないからね

そんな泣きそうな顔して
何を追い詰めさせてしまったかな・・・



「ルハンはずっと一緒にいてくれるの?」



いじらしくて可愛い
離れるなんて考えられないのに
心配性で寂しがりなミンソクを一人になんか
出来るわけないのに



「ミンソクが嫌って言ってもそばにいるよ」

「そ・・・」

「俺にとっての運命のパートナーだからね」

「だから・・・クサイって・・・」



恥ずかしそうに笑うミンソクを手放すつもりなんてないもの
どうやっても愛おしいんだから



「来年の秋も一緒にここにこよう?」



じわりと溜まった涙は溢れんばかりで
ふにゃっと笑うと向き直ってそろりと抱きついてくる



「春には2人で桜を見に行きたいね」

「・・・うん」

「夏は木漏れ日溢れる森で涼みながら、一緒に過ごそう」

「・・・ふふ」

「秋にはまたここに来て」

「うん」

「冬には雪原の中で2人で抱き合ってイチャイチャしよう」

「かっこよく終われないのかよ」



泣きながら吹き出しちゃって
ばーかって笑ってくれる



「これまでのことも教えてあげるけど、これからの思い出を2人で一緒に作っていこうね?」



秋蛍の光の祝福を受けて
これから沢山の時間を
過ごしていこうよ


君を連れて来たいと思った
この場所で
どんな不安も拭ってあげるから
愛をささやき続けることを約束するよ


寂しがり屋で心配性な君を
幸せで満たし続けてあげること


それが心からの願いだよ

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