例え苦い恋だとしても
□02
1ページ/1ページ
「ただいまー...」
「おかえり、ヒナツ。どうしたのそんなに疲れて」
「いい事思い付いたからアポロのところに行ったら怒られた」
「サボってれば怒られるでしょ」
困ったように笑うミナセ。
ヒナツはむっと眉を寄せた。
「だってデスクワーク嫌いなんだもの」
「好き嫌いの問題じゃないでしょ?」
はい、これ確認お願いね。
とミナセに十数枚の書類を渡される。
会議とか重要任務の話が書かれており、それだけで嫌になる。
任務はまだいい。外に出られるから。
会議は嫌いだった。どうせ彼はいない。
そんな我儘を現トップが許してはくれない事など、とっくに分かっていた。
ていうか、ランスと同じ事言うな。と思ったが口には出さなかった。
「はー...やだやだ」
「全部サカキさまのためでしょ。我慢我慢!ね?」
「そうなんだけどさぁ...」
全てはサカキのため。
それでも嫌いなものは嫌いだし、やりたくない事だってあるのだ。
だから幹部なんて辞めると言ったのに。
「アポロは何がしたいんだか...」
「どうしたの、突然」
「だっておかしいじゃん。あたしの代わりにランスが幹部やるって、それで話ついたはずなのにさ。なんであたし幹部やってんの?」
「さぁ...僕には分からないけど、アポロさまも何か考えがあるだよ、きっと」
「考えてなかったら真面目に殴る」
ぐっと右手を握り締め、目の前にはいないアポロを睨む。
ミナセはそれに苦笑し、残りの書類を片付けてしまおうとソファに座る。
ペラペラとヒナツの部下たちの今までの功績を確認して行く。
一昨日ヒナツが打ち込んだものをプリントアウトしたものだ。
アポロに提出するためにミスがないか確認しなければならないのだが、彼女は別にミスがあったっていいじゃんと確認を放棄したのだ。
これがサカキ相手だときちんと確認するのだから、その辺りが分かり易い。
「本当ヒナツはサカキさまの事好きだよね」
「え?うん、好きだよ」
スケジュールを卓上カレンダーに書き込みながら、ヒナツはしれっと答える。
会議多いなぁと呟きながら、それがどうしたの、とミナセを見やる。
「ううん、別に」
「ニヤニヤしてるわよミナセ」
「なんでもないってば」
「そう?」
ミナセは柔らかな雰囲気を纏っているが、その実、ヒナツに負けず劣らず気が強く頑固である。
これは言わないな、と判断したヒナツはそこで追求を止めた。
なんとなく言いたい事は分かってはいたが、プライバシーというものがある。
彼女が言い出すまでは知らない振りをしておこうと決めた。
「そういえばミナセ」
「なぁに?」
ぎしり、と椅子の背もたれが音を立てる。
パソコンを立ち上げながらヒナツは言った。
「ラムダが呼んでたよ」
ミナセは一瞬すごく嬉しそうな顔になったものの、すぐにそれを引っ込める。
(知ってるから別にいいんだけどなぁ)
彼女がラムダに恋心を抱いていると気付いたのはもう結構前の事である。
なぜラムダ、とは思ったが、好みなど人それぞれだ。
「今?」
「あー...夕飯の後、かな」
「分かった。ありがとう」
何の為にポケギアを持っているんだろうと思ったが、ミナセはヒナツの隊に所属している。ラムダが番号を知っているはずがなかった。
あとでラムダに番号を教えておいてやろうと思うヒナツであった。