例え苦い恋だとしても

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ある日の事。
朝食後、ヒナツはアポロの部屋を訪れていた。

「まったく...お前は何度言ったら分かるんですか」

「だから、あたしデスクワーク嫌いなの」

「好き嫌いで仕事を決めないでください」

今日も例外なく、デスクワークをサボる為であった。
何度注意しても聞かないヒナツにアポロは頭を悩ませていた。
それを知ってか知らずか、彼女はこうやって楽しげに笑うのだ。
もうそろそろ反省文でも書かせようかなどとアポロは考えるまでになっていた。

「失礼しますよ、アポロ」

ノックが聞こえ、ランスが部屋に入ってくる。きっちりと団服を身に纏っており、これから出掛ける風である。

「おや、ランスではないですか。もう出発ですか?」

「ええ。一応報告に。...それで、なぜヒナツはここにいるんです」

呆れ以外の何ものでもない視線を向けられる。

「サボリに決まってるじゃん。何、ランス外行くの?」

「任務ですよ」

「あーヤドンの井戸か」

呆れの次は知っているなら聞くな、と言わんばかりの目を向けられた。
いいなぁ、と呟くヒナツ。
最近外に出られない事が不満らしい。

「一緒に行って来てもいいですよ」

そんな彼女にアポロはさらっと言った。
ランスがそれに思い切り顔を顰める。

「アポロ...何を言い出すんですか貴方は」

「どうせここにいても仕事をしないのなら同じ事でしょう」

どうします?とアポロに問われ、ランスの嫌そうな顔を見つつヒナツはうーん、と首を傾げる。
数十秒そうやって悩み、うん、と一つ頷いた。

「行かない。頑張ってねランス」

おや、とアポロは小さく笑った。
ランスも少し驚いたように目を見開く。

「どうしたんです?外に行けますよ」

「んー、何か嫌な予感がするから」

と、言いながらアポロの仕事机の端に腰掛ける。行儀が悪いですよ、というアポロの声は勿論スルーである。

「まあいいでしょう。ランス、なるべく騒ぎは起こさないように」

「言われなくとも分かっています」

「いってらっしゃーい」

ヒナツはひらひらと手を振ってランスを見送る。部屋に戻る気はないらしい。
だがアポロにも仕事がある。

「お前も戻りなさい。私にもやらねばならない事があるのですから」

「邪魔はしないから」

ね、いいでしょ?とヒナツはひどく無邪気に笑った。
アポロは呆れたような表情でため息を一つ。
それを肯定ととったらしいヒナツは机から降りてソファに向かう。

「いいなんて誰も言っていないですよ」

「えーだって駄目なんて言ってないじゃない」

ああ言えばこう言う、である。
アポロは再びため息を吐いて椅子に座り、書類に手を伸ばす。

「...勝手になさい」

「ふふっありがと、アポロ」

にっこり、ヒナツは満足気に笑った。

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