例え苦い恋だとしても

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重たい瞼を開けると、見慣れた天井がぼんやりと見えた。頭が少し痛むのは、昨夜飲み過ぎたからだろう。
緩慢な動きで顔を右に向けると、鮮やかなエメラルドグリーンが視界に映る。
ヒナツの右手を両の手で握ったまま、ランスは眠っていた。
もぞもぞと体の向きを変えランスに向き合う形になり、空いている左手でそっとその髪を撫ぜた。
ぴく、と瞼が動いたものの、目覚める気配はない。
左手を髪から頬へとずらして行く。
もう乾いた涙の後をなぞりながら、 ヒナツはそっと息を吐いた。
昨日、ヤドンの井戸の任務から帰還したランスから詳しい事情を聞き、そして珍しく落ち込んだ様子だったランスを部屋に呼んだのが確か午後十時頃だっただろうか。
本来の任務である資金の調達は問題がなかったためお咎め無しとなり、だがそれでも子供一人に敗北したというのは、ランス自身が許せないことなのだと思う。
彼は頑張り過ぎたのだ。少し休ませるいい口実が出来たと思った。

「...よく頑張ったよ、ランス」

ここまで、幹部という地位に登り詰めるまで、ランスが人一倍の努力をして来た事をヒナツは知っている。
組織に貢献するために、完璧を求めて。
負けて悔しいと思えるのなら、まだまだ強くなれる。
今は休めばいい。
息抜きをして、ポケモンたちと向き合って、自分自身と向き合って、少しゆっくり過ごしたらいい。
その間の埋め合わせくらい、いくらだって受け付けるから。
ランスをロケット団に引き入れたのは他の誰でもない、ヒナツだ。
元上司でもあるし、彼の事は下手をすれば彼自身より知っている。
だからという訳でもないが、少しくらい甘やかしたって罰は当たらないだろう。
ヒナツは再びランスの髪を撫ぜ、手を重ねた。
起床時刻はもう目前に迫っているが、きっとアポロは見逃してくれる。
そんな確信がヒナツにはあった。
ランスが幹部になるまでは、あんなにずっと側にいたのに、今では毎日顔を合わせる事すら困難になっている。幹部という立場は想像より遥かに忙しく、責任は重く、任務の度に神経をすり減らす。
自分の判断一つで、物事の結果は大きく変わる。
それがやりがいだと言えばそれまでだが。
ヒナツは二度寝をするために結局完全に開く事のなかった瞼を閉じた。
部屋にいないランスを探して、アテナがここを訪れ、散々にからかわれたのは言うまでもない。

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