ランスさまのペット(仮)

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「きみはのんびり屋さんですねぇ」

「やぁん」

私の目の前で、呑気に鳴くヤドン。
でもですよ、気付きません?普通。

「痛くないんですかねぇ?」

ヤドンの脇に手を差し入れ、目線が合うように持ち上げる。やぁん、と再びヤドンが鳴く。
そのヤドンに、尻尾はない。
ちなみに、私の周りで寝そべっているヤドンたちも、尻尾がない。
暗い井戸の中で私の耳に届くのは、呑気なヤドンの鳴き声と、シャキンという鋭利な鋏の音。

「......暇、ですね」

ヤドンを地面に下ろし、頭を撫でてやる。やぁん、とまた呑気な鳴き声。
状況...理解してないんだろうな、と思った。
それにしても鈍過ぎないか。

「どこにいるのかと思ったら...何をしているんです、リナ」

「ランスさま」

後ろから声をかけられて振り返るとそこに立っていたのは、私の上司でありロケット団幹部であるランスさま。

「ヤドンと遊んでいました。余りにも状況理解していないみたいで面白くて」

「まあ分からないでしょうね」

私の言葉に、ランスさまは肩を竦めて鼻で笑った。
それにしても...。

「可哀想、ですか?」

ランスさまが、まるで私の心を読んだかのように言った。
また顔に出ていたのだろうか。
それとも口に出ていたのか。
どちらでも構いはしないのだけれど。

「そう...ですねぇ...この子たちは何も悪くないのに、という感じはしています」

「貴女はロケット団向きの思考ではないですよね」

「サカキさまにもアポロさまにも言われましたが、そうでもないですよ?」

立ち上がり、団服を整える。
ランスさまは別に私の話には興味はないのだろう。
尻尾を切られたヤドンを、感情のない目で見ている。
彼にとって、というか、ロケット団にとってポケモンは道具と同じらしい。
ポケモンは確かに道具、かもしれないけれど。
この子たちには何も罪はないのだ。

「......ランスさま」

「何です」

「上が騒がしいです。誰かお客さまでもおいでになったのでは?」

「お客さまなんて来るはずないでしょう。邪魔者の間違いですよ、リナ」

そうですか、と私が呟いたその瞬間団員の一人がこちらへ走って来るのが見えた。

「大変です...っ侵入者が...!!」

嫌な予感はしたけれど、そんなことを言ったところで我が上司さまが聞き入れるはずもないことを知っていた私は、ただ黙って足元のヤドンを見下ろした。やぁん、とヤドンは可愛らしく呑気に鳴いた。ちく、胸が小さく痛んだ気もしたけれど、無視する。

「貴女は下がっていなさい」

「...ランスさまがお相手なさるのですか?」

「貴女はポケモンを連れていないでしょう?」

「そうですけど......」

ランスさまの『命令』の中に含まれていた、それを私はきちんと守った。
今回の任務に、ポケモンを連れて来るなと。
なぜそんなことを言われたのかは知らないが、大体ランスさまの命令は不思議な、私には理解し切れないものばかりではあるから今更だ。

そうこうしているうちに侵入者はどうやら近くまで来たらしい。
騒ぎの声が大きく聞こえる。
見えた姿に、ランスさまが眉を顰めた。私も恐らく同じような顔をしているのだろうなぁ、と思った。
だって、その侵入者が、余りにも予想外過ぎて。
半ば無意識に、言葉が口をついて出た。

「......子供、ですね」

「そうですね。舐められたものです」

ヒノアラシを連れた、10歳くらいの子供。
三年前の出来事が思い返される。
ああ、嫌な予感がする。

どうか、外れますように。

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