ランスさまのペット(仮)

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ヤドンの井戸での任務から数日経ったある日。
昼過ぎ、私はアテナさまの部屋を訪ねていた。
ランスさまに伝えてくるのを忘れたような気もしたが、与えられた仕事は終えて来たし、問題はないだろう。

「貴方とゆっくり話すのも久しぶりね」

いつもはお邪魔虫がいて、とアテナさまは笑う。
私もつられて笑いながら、コーヒーカップに手を伸ばす。
アテナさまが淹れてくれたコーヒーも、久しぶりだ。
今でこそほぼ毎日四六時中ランスさまと過ごしている私だが、ランスさまが幹部になるまではアテナさまの隊に所属していた。それも、アテナさまが幹部になった時からだ。

「結構経つけどどう?ランスの下っていうのは」

「楽しいですよ。ランスさまは頭の回転が速いので話していて飽きないですし。不満を言うなら、人使いが少々荒いことと......無駄にモテるところですかね」

「......嫌がらせ、まだ続いてるのね」

「いい加減、相手にするのも疲れました」

ブラックコーヒーを一口流し込んでカップを戻す。アテナさまは苦く笑っていた。

「ランスに言えば良いじゃない」

「言っても、ランスさまは変わらないですよ」

「そうかしら」

「...私は恋人ではありませんから」

恋人が他の女から嫌がらせを受けているのとは、訳が違う。私はランスさまの部下であり、他の団員と違うことと言えば、彼の補佐を務めていることくらいだ。

「似たようなものでしょ」

「大分違うと思うんですが」

「分かってないわねぇ。いい?リナ」

アテナさまの真剣な瞳に、一瞬気圧される。
そして続いた言葉に、再び手にしたコーヒーカップを、私は危うく落とすところだった。

聞かなければよかった。

困惑する私のことなどお構いなしのようにアテナさまはひどく楽しそうに笑っている。綺麗な方だ。そんなことを考えたあたり、無意識に現実から逃げたようだ。
しかし、それ以上の逃避を、アテナさまは許してはくれなかった。

「嘘じゃないわよ?気になるのならランスに聞いてみなさいな」

「...命が惜しいので遠慮します」

「あら残念」

まったくそうは見えない表情でアテナさまはカップに口を付けた。
私はそんなアテナさまを見ながら、苦々しい思いでコーヒーを飲む。美味しい、はずなのに。

「とりあえずそれ、忘れていいですか」

「素直じゃないわねぇ。ランスといい勝負だわ。まあ、貴方の好きになさい」

「ありがとうございます」

その後はただの世間話になった。やはり同性同士の方が話が弾む。
女子団員に友人のいない私にとって、アテナさまはかけがえのない存在といっても過言ではない。元上司ということを除いても、私は彼女を尊敬している。
だがしかし、そんな平和な空気をぶち壊してくれる人はどこにでもいるものだ。

「あら?リナ、ポケギアが鳴ってるわよ」

「誰でしょう......」

アテナさまに言われ、着信を告げるポケギアを操作し相手を確認する。

「......無視していいですかね」

「ランス?」

「はい。私、ここに来ることをランスさまに伝えてくるのを忘れていました」

「リナ......怒られるんじゃない?」

仕事は終えてきたけれど、無断で出て来たことは事実であり、ランスさまは怒るだろう。
お説教で済めばいい方だ。
また面倒事を押し付けられるのは困る。
素直に出ておきなさいよ、とアテナさまに促され、仕方なく応答ボタンを押した。

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